腹黒策士な弁護士が甘い王子様の仮面を被ってモブの私を誘惑してきます
「へぇ~、婚約ですか。彼女、恋愛漫画に憧れているからいろいろ面倒くさいでしょう? いや、実は私も昔、萌音と婚約していた時期がありましてね」
 今ここでそれを言う?
 これって、完全なる嫌がらせってやつに違いない。
 突然の開き直りとでも言おうか。フッと笑いながら、俊さんが飛んでもないことを言い出すから唖然としてしまう。
 ふいに紫苑さんを見上げてみたら、視線が絡まり合ってなぜか穏やかな笑みが降ってきて。俊さんに言われたことなどまったく気にしていない様子である。
 私を見つめていた視線がゆっくりと俊さんの方に流れていくと、いつの間にか紫苑さんの顔から笑みが消えていた。
「そこが彼女のいいところなのに、あなたはまるで見る目がないですね。でも、あなたが婚約破棄してくれたおかげで今、こうやって萌音と出会えたわけですから、心底感謝していますよ」
 これはきっと俊さんへの挑発行為だ。
 そう悟った瞬間、さらに腰を引き寄せられ、再び甘いまなざしに射貫かれた。しかも、鼻先がくっつくくらいに紫苑さんが顔を近づけてくるから大パニックだ。
 目の前に国宝級に美形なご尊顔があって。
 もう心臓が、心臓が。
 もちそうにないのですが!
 恋愛漫画においてこれはキスをする距離であって、まさにキュン死案件である。
「今後一切、萌音に近づかないでくださいね。次、彼女を不快にさせたり、あなたがふざけた行為をしたら、そのときは見逃しませんよ? どうかそのことを胸に留めておいてください。では失礼します」
 最後に釘を刺すのも見事である。
 紫苑さんが私の腰元に手を添えながらゆっくりと歩き出す。
 最後にチラッと見えた俊さんの顔は屈辱からか、すごく真っ赤に染まっていた。
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