腹黒策士な弁護士が甘い王子様の仮面を被ってモブの私を誘惑してきます
「大丈夫か?」
 そうこうしているうちに、紫苑さんに連れて来られたのは、会場横にある控室だった。
 紫苑さんが紅茶のカップを手渡してきて、隣に腰を下ろす。そのままじっとこちらを見つめてくる。
「お気遣いいただき恐縮です。大丈夫ですので会場に戻りましょう」
 そう促してみるが、紫苑さんはドカッとソファーに座ったままで、立ち上がる素振りはない。
「無理をする必要はない。気持ちが落ち着くまでここにいたらいい」
 穏やかな口調だ。
 どうやら私のことを気遣ってくれているようだが、本当に自分でも驚くくらいメンタルが正常運転なのだ。
 きっとこれは、紫苑さんがあの場であんなふうにやり返してくれたかもしれない。
「本当に大丈夫なんです。むしろスッキリしたので!」
 私の返答は紫苑さんにとって、意外だったのだろう。
 一瞬、目を丸くしたのが見て取れた。
「本当に? 彼にずっと未練があったんじゃないのか?」
 テーブルの上にある紅茶のティーカップに手を伸ばしながら紫苑さんが聞いてくる。彼がそれを一口、飲んだのを確認したあと、私は胸の内を話し始めた。
「確かに未練はありました。でも四年ぶりに彼と再会して話してみたら価値観が合わないし、お互いを尊重し合えない関係だなって思って。こんなにも人の気持ちが分からない人にずっと囚われていたんだと考えたら、なんだか悔しくなってきたというか」
「そうか」
 相づちを打ちながら話を聞いてくれる紫苑さんの表情が、どことなくうれしそうに感じるのは私の気のせいだろうか。
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