腹黒策士な弁護士が甘い王子様の仮面を被ってモブの私を誘惑してきます
「はい。だから、前に進んで素敵な人を見つけようって思えました。それに紫苑さんがあんな風に言い返してくださったので、すごく胸がスカッとしました。本当にありがとうございました!」
 前に進むきっかけとなったのだから、このタイミングで俊さんに出会えたことはむしろよかったのかもしれない。
 心のもやもやがなくなり、実に晴れ晴れとしていて無意識に頬が綻ぶ。
「だったら一刻も早く克服しないとな」
 手に持つ紅茶カップをテーブルに置いたあと、紫苑さんがどこか悪い笑みを口もとに宿しながら顔を近づけてくる。
「一刻も早く克服? なにをです?」
 首を傾げていたら、クイッと顎を掴まれて。さらに紫苑さんの美しい顔が寄ってきて、ドキドキが加速していく。
「恋愛のトラウマを。男に大切にされたらどんな気持ちになるのか、俺が教えてやる」
 な、なんですとー?
 思わぬ宣言に私はノックアウト寸前である。
「本気でいくから覚悟しておけよ」
 水を求める金魚のように口をハクハクとしていたら、紫苑さんがさらに笑みを深くした。
 どうやら私に拒否権はないらしい。
 いや、こんなハイスペックな男性に恋愛指南を受けられるなんて、むしろ喜ぶべきことなのではなかろうか。
 このチャンスを見す見す逃したら、次の恋愛に進むのに時間がかかってあっという間に四十歳になっているかもしれない。
 子どもが最低でもふたりは欲しいと思っている私にはそれでは遅いのだ。
 ならば、指南を受ける一択である。
「ど、どうか、お手柔らかに。恋愛指南のほどよろしくお願いいたします」
 こうして偽婚約者である紫苑さんによるスパルタ恋愛指南が幕を開けることになったのだった。
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