腹黒策士な弁護士が甘い王子様の仮面を被ってモブの私を誘惑してきます
「紫苑さん、その辺でゆっくり寛いでてくださいね」
 萌音がエプロンを手に取り、キッチンからそう言う。
 俺はほんのりと微笑みながら頷き、リビングのグレーのソファーに腰を下ろした。
 仕事が休みだったその日、俺は萌音のマンションを訪れていた。小酒井医師のセクハラの件、そして元許嫁の件で助けてくれたお礼がしたいと萌音が言い出し、自宅に招いて手料理を振り回ってくれることになったのだ。
 まさか初手からこんなにもうまく事が運ぶなんてな。
 にやけそうになる口もとを引き締め直しながら、ゆっくりと部屋の中を見渡す。
 1LDKの部屋は白とグレーと水色の淡色系の色合いでまとめられた北欧テイストで、かわいらしい雑貨やくまのぬいぐるみが飾られている。
 見た目は凛としていてクールに見える萌音だが、どうやらかわいいテイストの物が好きらしい。
 服装もいつものパンツスーツ姿ではなく、淡いブルーのツイードVカーディガンにロング丈の白のサテンスカートを合わせていてなんだか新鮮だ。
「俺もなにか手伝おうか?」
 ふいにそう尋ねると、「今日は私がもてなすと決めているので、お気遣いなく」と返ってきたので、素直に甘えることにした。
 ふと、本棚に収納された本が目に入る。
 ああ、これが萌音が力説していた恋愛漫画か。
「これ読んでもいいか?」
 本棚に歩み寄り、指さしながら尋ねてみる。
 すると、萌音が意外だと言わんばかりに数回、目を瞬かせた。
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