腹黒策士な弁護士が甘い王子様の仮面を被ってモブの私を誘惑してきます
「そもそも萌音はキスの先になにがあるのか理解してるのか?」
「はい、もちろんです!」
 萌音は自信ありげに即答すると、リビングの本棚からさっき俺が読んでいた漫画本を持ってきてそれを開いて俺に見せてくる。
「ここです、ここ! キスをしたあと、そのままベッドにふたりで倒れ込んで……その後、好きだよとか、愛してると甘い言葉を囁いて。それからチュンチュンとかいう……鳥が鳴くような音が流れ、朝を迎えるのですよね?」
 萌音がどや顔を見せる。
 彼女にとっては愛読するソフトな恋愛漫画の中の世界がすべてで、おそらく知識もそこで得たものなのだろう。
 こんなにも純粋無垢な人間にかつて出会ったことがあっただろうか。
 まさに未知との遭遇だ。
「ただ、このチュンチュンという音は、どのような状況でどのように発せられるのかは不明ですが」
 思わず、ははっ……と乾いた笑いが漏れた。
「あの、なぜ笑っているのでしょうか? なにか間違いがあったのでしょうか? 間違いがあったのなら、教えていただけますか?」
 すぐに棚からノートとボールペンを取ってきてメモを取ろうとする萌音を見て、つい目を瞬かせる。
 バリキャリで勇ましい姿の裏に、こんなにも天然っぷりな一面が隠されていたとは。
 どこまでも俺を楽しませてくれる面白い女だ。
「いや、ある意味間違ってはいないが」
「間違ってはいないが?」
 早く続きを話せと言わんばかりに、萌音は前のめり気味だ。
「キスの先にもいろいろ複雑な手順があるんだ。だから順を追って教えてやる」
 フッと笑い両手で萌音の頬を挟み込むと、彼女が照れたように目を泳がせながら何度も頷いた。
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