腹黒策士な弁護士が甘い王子様の仮面を被ってモブの私を誘惑してきます
「私には婚約者がいますので、そういうお誘いはお断りします。では失礼します」
「鹿波にはほかに女がいるのに、それに気づかないなんて哀れだな」
 歩きだしたところ、俊さんが慌てたようにそう話を切り出した。
 思わず足を止めてしまったのは、先日のジュエリーショップで見かけた件を思い出してしまったからだ。
「ほら見てみろよ、これ」
 どこか楽しげな声が耳に届いた。こちらに歩み寄ってきた俊さんがスマホの画面をこちらに見せてくる。それを見て、思わず目を見開いた。
 その動画に映っているのは、紛れもなく紫苑さんとあの日見かけた可愛らしい女性だ。その服装は私が目撃したものと一緒で、彼女の手にはあのジュエリーショップのショッパーがある。
 おそらくこの動画は、あの日のものだろう。
 それだけでも衝撃的だったのに……。
「ほら、このあとふたりでホテルに入っていったんだぞ? こんな裏切りをされているんだから、萌音も好きにしたっていいだろ?」
 動画を流しながらご丁寧に説明してくれた俊さんを鋭いまなざしで見上げる。少しでも気を抜いてしまったら、泣き出してしまいそうだ。
「俺なら萌音をこんなふうに傷つけることはしない。もう一度、俺たちやり直さないか?」
 いったいどの口が言っているんだと、文句を言ってやりたくなる。
「離れてみて萌音の良さに気づいたんだ。やっぱり俺には萌音しか……」
「今さらなにを言っているんですか? 私は紫苑さんを信じているし、あなたとやり直す気は百パーセントありません!」
 ふざけるなと言わんばかりに睨みつけ、背を向けて走り出す。
 瞳からはとめどなく涙があふれ、しばらく止まることはなかった。
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