腹黒策士な弁護士が甘い王子様の仮面を被ってモブの私を誘惑してきます
 誰だろう?
 もしかしたら、この前ネットで頼んだ恋愛漫画が届いたのかもしれない。
 だとしたら、失恋した私には絶好のタイミングである。
 傷ついた心を癒してほしい。
 そんな思いに焦がれていたら、再度インターホンが鳴った。ムクッと立ち上がりリビングへ。そして、モニターを覗き込んだ。
「え? なんで?」
 モニターに映っていたのは宅配業者ではなく、まさかの紫苑さんだ。
 背中に妙な冷や汗が浮かぶ。
 この際だから、居留守を使う?
 リビングとキッチンを行ったり来たりしていたらバッグの中のスマホが震えたので、おそるおそる手に取ってみる。
 これまた紫苑さんからだ。
 どうしよう。
 どうしたらいい?
 結局なかなか鳴りやまない着信を無視できず、通話ボタンをタップした。
「もしもし?」
『……やっと出た』
 安堵に満ちた紫苑さんの声が、電話越しに聞こえてきた。
「あの、どうかしましたか?」
 久々に聞いた彼の声に胸がギュッと苦しくなる。心臓も騒々しい。それでも、一生懸命に平静を装い、言葉を絞り出す。
「最近全然ゆっくり話せていないから、顔を見に来た。いるんだろ?」
 なぜ在宅だと分かったの?
 いや、紫苑さんのことだ。かまをかけている可能性もあるのではなかろうか。
「あの……今、実は親戚の結婚式の帰りで外……」
 なんとか会うのを回避しようと画策する私の耳に、再びインターホンの音が響いた。
「いるじゃないか。すぐにここを開けてくれ」
 紫苑さんの方が何枚も上手だった。電話を繋いだままインターホンを鳴らし、その音で私が在宅かどうか確かめるという。
 まさに策士な紫苑らしい対応である。
 もうこうなれば降参するしかない。
 私は渋々玄関の施錠を解除して、紫苑さんを中に招き入れた。
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