腹黒策士な弁護士が甘い王子様の仮面を被ってモブの私を誘惑してきます
「紫苑さん、ごめんなさい。……関係を解消してほしいんです」
「え?」
 彼が大きく目を見開き、その後、下唇を強く噛んだ。
「もう恋愛指南は必要なくなったので。お互い素敵な人を見つけて幸せになりましょう」
 言葉を吐けば吐くほど、胸の痛みが増していく。
 今度は捨てられたわけじゃない。自分で決断して別れを選ぶのだ。
 それなのに、婚約破棄をされた時以上に辛い。
「ま、待ってくれ。いったいなにがあったんだ?」
 握られた手の力が強くなる。それと同時に切なげな瞳を向けられ、耐えられなくなってうつむいた。
「……別に、なにも」
「嘘だ。だったら、なぜ目を逸らす?」
 紫苑さんの目を見てしまったら、決心が揺らぎそうになる。そしたら、またズルズルとこの関係を続けてしまいそうで怖いのだ。
 繋がった掌から彼の温もりが伝わってきて、ますます胸が苦しい。
 この温もりを、彼の優しさを、本物だって信じられていたらどんなによかっただろう。
「両親を騙しているのが辛くなったんです。それに私は……紫苑さんの都合のいい女にはなりたくないので」
 こんなふうに遠回しにしか言えない私は、本当にかわいげのない女だと思う。
「都合のいい女? 確かにあんな形で君に婚約者のふりを頼んだから、そう取られてしまっても仕方がないかもしれない。だが、俺は本当に君のことを大切に思っている。ずっとこの先も萌音といたいんだ」
 なぜこんなにも紫苑さんが必死なのか分からない。その必死さにまた絆されそうになってしまっている愚かな自分がそこにいる。
 だけど、分かっている。
< 69 / 115 >

この作品をシェア

pagetop