腹黒策士な弁護士が甘い王子様の仮面を被ってモブの私を誘惑してきます
 彼の手を握り返しても、その先に私が望む幸せに待っていないのだと。
「大切だと仰るなら、どうしてあんな脅すような形で迫ってきたんですか? 私だったら、この先、共にしたい人と思っている人にあんな言い方はしないです」
「それは……」
 普段、あれだけ詭弁な彼が口ごもる。
 やはり彼にとって私は、あくまでも都合のいい偽婚約者でしかなかったのだと思い知らされた。
 込み上げてくる涙を必死に抑え、頭を上げる。
「とにかくもうこれ以上、関係を続けるつもりはないので」
「萌音、待ってく……」
「迷惑なので、お帰りください」
 ピシャリとそう言い放ち、握られた手を自ら解いた。
 あまりに紫苑さんが悲しそうな顔をするから、自然と目を逸らす。すると、水を打ったようにあたりが静まり返った。
「……分かった。今日のところは帰る。でも俺は君を諦めるつもりはないから」
 しばらくして、彼が席を立った。
 君を諦めるつもりはないって……。
 紫苑さんは、究極の人たらしに違いない。
 遠くなる足音を聞きながら、そんなことを思った。
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