腹黒策士な弁護士が甘い王子様の仮面を被ってモブの私を誘惑してきます
 どうしてここにいるの?
「俊さん……」
 つぶやいた声が震えてしまったのは、動揺からだろうか。
 俊さんが一方的に距離を詰めてきたので、思わず後ずさりした。
「ここに来たら、萌音と会える気がしたんだ」
 それって、狙ってこの場所で待っていたってこと?
 病的な執着と向けられた血走った目を前に怖気づく。
 顔色も青白く、どこか落ち着きがないようにも見える。
 もはやそこにいるのは、私が知っている俊さんではなかった。
「……何度も言っていますが、もうあなたとはお話することはないので」
 一刻も早くこの場を離れたくて駆け出そうとしたら、俊さんが逃さないとばかりに私の前に回り込んできた。
「萌音のお父さんの会社、今大変なことになっているんだってな? 俺なら力になれると思うよ。俺の女になるなら、父に融資の件、頼んでやってもいいぞ。ずっと俺に未練があったんだろ?」
 いったいなんの冗談かと、睫毛を瞬かせる。
 あんな一方的な振り方をしておいて、いまさら復縁したいと?
 それを承諾したら、父の会社を助けてやってもいいと?
 いまだに自分に未練があるという、勘違いもあり得ない。
 どこまで人を馬鹿にする気なの?
 ふざけるな、このクソ野郎。
 喉元まで出掛かった汚い言葉を呑み込み、俊さんを睨みつけた。
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