腹黒策士な弁護士が甘い王子様の仮面を被ってモブの私を誘惑してきます
「結構です! あの記事は事実無根ですので。それから、未練なんてこれっぽちもないです。不愉快なので、二度と私の前に現れないでいただけますか?」
 俊さんの視線が鋭くなったのが見て取れる。
 これ以上刺激してはマズいと分かっていても、本能的に言わずにはいられなかった。
「人が下手に出てやったのに、調子に乗りやがって!」
 手首を捻り上げられ、小さな悲鳴を上げた。
「おまえの立場をきちんと分からせてやらないとな」
 じりじりと力が強くなっていうのが分かる。
「は、放してよ!」
 今日の俊さんはなんだかヤバい気がする。今まで遭遇した時とは明らかに違う。
 とにかくなんとしても、この状況を回避しなくては。
 ふいに幼い頃に習った空手と護身術が頭を過った。
 たまには役に立つものだと思いながら掴まれた腕の方の掌を回転させ、親指の付け根で俊さんの母指球筋あたりを押し続ける。そして、拘束がわずかに緩んだ隙に肘を高く上げ、腕を振り切った。
 逃げるなら、今しかない。
 そのまま人通りの多い方へと走り出す。
 だが、後ろから足音が迫ってくる。
 チラッと振り返ると、俊さんは鬼の形相だ。
 男性の足の速さに叶うはずもなく、どんどん距離が縮まっていく。
 もうダメかもしれない。
 そんな負の感情に襲われ始めたその刹那。
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