腹黒策士な弁護士が甘い王子様の仮面を被ってモブの私を誘惑してきます
「ぐわっ!」
 後方からくぐもった声が聞こえ、急に足音が聞こえなくなった。
 なにが起こったのか分からず足を止め振り返ると、俊さんの体は紫苑さんによってアスファルトの上に押さえつけられていた。
 俊さんが顔を歪めている。
「おまえ、俺の大切な人になにしてんだ?」
 淀みを含んだひと際低い声が耳に届く。
「い、痛いって! ひとまず放してくれ」
「放したらおまえ、逃げるだろ」
「逃げない、絶対逃げないから! 悪かったって!」
 ……え?
 なにが起こったのか状況を確認したくて振り返ったのに、目の前であり得ないことが起こっているからさらに頭がついていけなくなって、かえって混乱している。
 慌てて駆け寄ると、紫苑さんが心配そうに私を見つめてきた。
「どうして、ここに……」
「コイツの企みを知って、萌音に接触を図るんじゃないかと思って。駆けつけるのが遅くなってごめんな」
 私のことを心配して来てくれたの?
 会社のことで忙しいだろうし、そもそもあんな酷いことを言ったのに、どうして?
 目の内をじんわりと滲ませていたら、俊さんの体を解放した紫苑さんに腰を抱き寄せられて。
 ああ、ダメだ。
 懐かしい香りに包まれ、涙腺が崩壊する。
 悩みも葛藤もすべてどうでもよくなってしまうほどに全身が一瞬で熱くなって、とめどない歓喜に満たされた。
 やっぱり紫苑さんを忘れられるはずがないんだ。
 この気持ちは、どう足掻いても止められるものではなかったのだ。
 気持ちを素直に認めたら、胸の内がクリアになっていくのが分かった。
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