腹黒策士な弁護士が甘い王子様の仮面を被ってモブの私を誘惑してきます
「紫苑さん、私……」
「俺にこんなことをしてただで済むと思うなよ」
 私の声を遮ったのは、ゆっくりと立ち上がった俊さんだ。服に付着した汚れを手ではたきながら睨んでくる。
 即座に紫苑さんが私の前に立ちはだかり、俊さんを真っ直ぐに見据えた。
「このクズが。その台詞、そっくりおまえに返すよ」
「はっ?」
 俊さんがさらに眉を顰める。そんな俊さんを前に、紫苑さんが一気に捲くし立て始めた。
「ギャンブルで多額の借金を抱えて首が回らないんだろ? 厳格な父親に知られたらヤバいもんな。だから、萌音の家の後ろ盾が欲しくなって、急に萌音に近づいたんだろ? 城崎製薬の記事もおまえの仕業だよな?」
「え?」
 思わず素っとん狂な声が漏れる。戸惑っているうちに紫苑さんが鞄からなにやらファイルを取り出し、俊さんの方に向けた。
「おまえがダークウェブを使い、そこで知り合ったフリーの記者に依頼した裏が取れているからもう言い逃れはできないぞ」
 俊さんの顔が見る見るうちに青ざめていく。
 おそらく紫苑さんが言ったことは事実なのだろう。
 もはや開いた口が塞がらない。
 私利私欲のために再び私にコンタクトを取ってきただけなく、父の会社のデマ記事を流し貶めようとしたなんて。
 にも関わらず、偽善者のふりをして『自分が救ってやるよ』と言わんばかりに融資の件を持ち掛けてきたのだから、なにからなにまで最低極まりない。
 まさにクソ野郎である。
「今度という今度は父親も助けてはくれないだろうな。きっちり自分が犯した罪を償ってもらうからな。なにより二度と萌音に近づくな」
 紫苑さんが冷たく言い放つと、生気を失ったような顔をした俊さんがその場に頽れた。
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