トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-
昼を過ぎた頃だった

玄関の扉が慌ただしく開く音がした

ガチャッ――

思わず顔を上げる

そして次の瞬間、紗凪が部屋へ入ってきた

髪は少し乱れていて肩で息をしている

きっと病院から急いで帰ってきたんだろう

夜勤明けのはずなのに

着替える余裕もなかったのか、仕事帰りそのままの姿だった

その顔を見た瞬間、何となく分かった

ニュースを見たんだ

俺はソファから立ち上がる

そしてできるだけいつも通りの声で言った

「おかえり」

紗凪がこちらを見る

大きな瞳

でも、その目はもう赤かった

何か言おうとして唇が震える

必死に堪えているのが分かった

それでも次の瞬間には涙が溢れていた

ぽろり

一粒落ちる

するともう止まらなかった

「紗凪…」

名前を呼ぶ

でも紗凪は首を横に振った

「ごめん……」

掠れた声

「ごめん……」

また涙が零れる

「私が……泣いて……ごめん……」

ただ悲しかったんだと思う

悔しかったんだと思う

黒騎士のことを近くで見てきたから

奏のことも知っているから

だから余計に辛かったんだろう

紗凪は涙を拭おうとする

でも次から次へと溢れてくる

「活動休止って……」

声が震える

「ニュース見て……」

また涙が落ちる

「奏くんやっと少し落ち着いてきたのに……」

その先が続かない

俺はゆっくり近付いた

そして何も言わずに抱きしめた

細い身体

夜勤明けで疲れているはずなのに、それでも俺たちのことを心配してくれている

胸が締め付けられた

紗凪が俺の胸へ顔を埋める

肩が震えている

俺は背中をゆっくり撫でた

「仕方ないことだから」

静かに言う

「大丈夫だよ」

自分に言い聞かせるみたいに

優しく

紗凪は何も言わない

ただ泣いていた

俺はそのまま抱きしめ続ける

しばらくして紗凪がぽつりと呟いた

「悔しい……」

小さな声だった

「本当に悔しい……」

俺は目を閉じる

そうだ

悔しい

俺だって悔しい

優朔も

蒼依も

奏も

みんな悔しい

でも今はそれをどうすることもできない

だから耐えるしかない

紗凪が少し顔を上げる

涙で濡れた目

「陽貴くんは……大丈夫…?」

その質問に思わず苦笑した

自分だって泣きたいだろうに最後には俺の心配をする

本当に紗凪らしい

俺は少しだけ笑う

「大丈夫じゃないかも」

正直に答えた

すると紗凪が目を丸くする

「でも」

俺は続けた

「大丈夫にする」

そう言って頭を撫でた

「奏が帰ってくる場所守らなきゃいけないから」

紗凪の目からまた涙が零れる

でも今度は少しだけ優しい涙だった

「うん……」

小さく頷く

俺はもう一度抱き寄せた

窓の外では昼の光が差し込んでいる

黒騎士は活動休止になった

未来なんてまだ見えない

でもこうして隣で一緒に泣いてくれる人がいる
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