トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-
事務所に着くとすでに優朔と蒼依が来ていた

二人ともスーツ姿

表情もどこか硬い

でもそれはきっと俺も同じだった

「おはよう」

声を掛けると

「おはよう」

優朔が頷く

蒼依も小さく手を上げた

「全然寝れなかったっす」

そう言いながら苦笑する

「俺も」

思わず答える

優朔も珍しく笑った

「同じだな」

その短いやり取りだけで少し緊張が解ける

すると黒瀬さんがやって来た

「時間だ」

その一言で空気が引き締まる

俺たちは揃ってエレベーターへ向かった

地下駐車場

そこには黒いバンが停まっていた

何度も乗った車だ

ライブ

ドラマ撮影

全国ツアー

色んな場所へ向かった車

でも今日ほど重い気持ちで乗り込むのは初めてだった

車内へ入る

静かな空間

エンジン音だけが響いていた

車がゆっくりと走り出す

誰も喋らない

窓の外の景色だけが流れていく

しばらくして黒瀬さんが前の席から振り返った

「弁護士チームはもう会場に着いてる」

その言葉に全員が顔を上げる

「最終確認も終わった」

「社長も向こうにいる」

俺は小さく頷いた

いよいよだ

本当に始まる

今日の会見は前回とは違う

前回はただ耐えるだけだった

何を言っても疑われた

どれだけ説明しても足りなかった

でも今回は違う

事実がある証拠がある

そして俺たちを支えてくれる人たちがいる

それでも緊張しないわけじゃない

手のひらが少し汗ばんでいた

ふと隣を見る

優朔が窓の外を見ている

その横顔はいつも通り冷静に見えた

でも長い付き合いだから分かる

優朔もかなり緊張している

反対側を見る

蒼依はスマホを握ったままだった

画面は消えたまま何も見ていない

ただ握り締めている

きっと考えていることは同じだ

奏のこと

車内に静かな時間が流れる

その時、蒼依がぽつりと呟いた

「奏、見てるっすかね」

誰に向けた言葉でもなかった

その言葉は車内に静かに落ちた

俺は少し考える

病院の個室

大きなテレビ

ベッド



眠気

昨日見た奏の姿

そして小さく笑った

「見てるだろ」

そう答える

「たぶんね」

優朔も頷いた

その声は妙に確信に満ちていた

俺も同じ気持ちだった

きっと奏は見る

怖くても

苦しくても

見届けようとするはずだ

奏はそういう人間だから

だからこそ負けるわけにはいかない

今日だけは

奏を守るために

黒騎士を守るために

俺たちが前に立つ

窓の外には東京の街並みが広がっていた

やがて

遠くに会場の建物が見えてくる

その瞬間誰も口にしなかったけれど車内の空気が変わった

到着する

いよいよ始まる

二か月間の苦しみ

絶望

怒り

悔しさ

その全てを背負って

俺たちは一歩踏み出した
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