トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-
患者の側に駆け寄ると、周りは異様な静寂に包まれていた

先着していた救急隊が必死にモニターを装着し、救命処置を続けている

患者は二十代男性。顔面蒼白。全身冷汗

呼び掛けに対する反応はあるが、朦朧としていてひどく鈍い

「私の声、分かりますか?」

「……あ……う……」

激しい痛みに耐えるような呻き声だけで、明確な返答にならない

救急隊員が緊迫した声で状況を報告する

「突発的な胸背部痛の発生から約二十分。自宅リビングで崩れ落ちるように倒れたとのことです。意識レベルはJCSⅡ-20。初期バイタルは血圧78/46、脈拍138、SpO₂89%です」

重篤なショック状態

私は患者の異様な皮膚の冷たさを確認しながら、深く頷く

志田先生が鋭い視線で指示を出した

「一ノ瀬、すぐに初期評価をしよう」

「はい」

私は患者の頭側へ回り、A(気道)B(呼吸)C(循環)の評価を開始した

「A、気道は開通しています」

口腔内を確認。嘔吐物や閉塞を疑う異物なし

「B評価します」

胸郭の動きを見る。両側の呼吸音を聴取する。左はしっかりと聞こえる。だが、右の呼吸音は著しく減弱していた。

さらに頸静脈がパンパンに怒張しているのが目に飛び込んでくる

嫌な予感が、背筋を駆け抜けた

「先生」私は志田先生の目を真っ直ぐ見据える

「右の呼吸音減弱、頸静脈の怒張を認めます。
血圧低下と心拍数の上昇も進行しています」

先生も即座に聴診器を当て、そして顔色を変えた

「急性大動脈解離による、心タンポナーデの併発だ」

空気が一瞬で張り詰める

解離した血液が心嚢内に漏れ出し、心臓を外側から圧迫して、血液を送り出せなくしている

患者のSpO₂はさらに低下し、87%を表示した

脈拍もさらに跳ね上がっていく

「心嚢穿刺(しんのうせんし)の準備!」

「はい」

私は即座に滅菌キットを開封した

皮膚の消毒。エコーの準備。

長く鋭い穿刺針を志田先生の手へと素早く手渡す

エコー画面で心嚢内の貯留液を確認しながら、患者の胸壁から心臓の周囲へと針が慎重に挿入される

次の瞬間。シリンジの中に、どす黒い血液が勢いよく引かれてきた

心臓への圧迫が解除され、モニターの数値が少しずつ上昇していく。

SpO₂が89、91、94%へ

心原性の閉塞性ショック状態が、劇的に改善の兆しを見せ始める

「よし、一時的に心拍出は確保された」

志田先生が短く頷いた
< 20 / 249 >

この作品をシェア

pagetop