トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-
患者を収容したヘリが離陸する

ローター音が機内に響く

私はモニターを確認した

心拍数145。血圧82/48。SpO₂95%

心嚢穿刺で一時的にショックは脱したものの、循環動態は依然として極めて不安定だった

「エコーで確認する」

志田先生が超音波プローブを手に取る

「はい」

私は患者の上衣をさらに開き、観察しやすいよう体位を調整する

機内の空気が張り詰める

画面を見つめていた志田先生が小さく呟いた

「……上行大動脈にフラップを認める。心嚢液も再貯留傾向だ」

やはり急性大動脈解離

予想していた最悪の病態のひとつだった

さらに下肢血管の評価も行う

「大腿動脈の血流もかなり落ちているな」

「はい」

患者の血圧は再び低下を始めている。

78/42。私はすぐに通信機へ手を伸ばした

「ドクターヘリより、中央大学高度救命救急センターへ」

数秒後、聞き慣れた声が返ってきた

『こちら中央大学ER』

その声に私は少しだけ表情を緩める

「梓」

『うん』

通信の向こうで梓も気付いたらしい

しかし次の瞬間には、完全に仕事の声へ切り替わる

『患者情報ください』

私も気持ちを切り替える

「二十代男性。急性大動脈解離、スタンフォードA型疑い。心タンポナーデに対し心嚢穿刺施行済み。エコー上フラップあり。下肢虚血および心原性ショック進行中」

『バイタルは?』

「血圧78/42。脈拍148。挿管準備中」

通信の向こうで、誰かに指示を出す声が聞こえる

『心臓血管外科へ即時ホットライン繋いで! 手術室の緊急立ち上げ要請!人工心肺の準備と輸血手配急いで!』

ERが一気に動き始めたのが伝わってくる

そして梓が再び通信へ戻る

『紗凪』

「うん」

『受け入れ準備完了させる。安心して連れてきて』

私は小さく笑った

「頼んだ」

『任せて』

通信が切れる。

志田先生がその様子を見ていた

「お前と七瀬が組むと早い」

思わず苦笑する

確かにそうかもしれない

何年も同じ現場で戦ってきた

お互いの考えることは大体分かる

その時、患者の反応がさらに低下した

患者を見る

「先生、GCS落ちてます。意識レベル低下」

「ここで挿管しよう」

「準備できています」

私はすでに薬剤も器材も展開済みだった

志田先生が一瞬だけこちらを見る 。

その目に信頼が滲む

そして、その期待を裏切るつもりもなかった

「チューブ」

「はい」

「カフ確認」

「問題ありません」

処置は淀みなく進んでいく

限られた機内、限られた時間

その中でもチームは迷わない患者を生かして病院へ届ける。ただそれだけを目指していた

やがて中央大学病院が見えてくる。屋上ヘリポートには、すでに受け入れチームが並んでいた

先頭に立っているのは梓
その姿を見た瞬間、私は心の中で思う。——よし。ここからは、ERの戦いだ。
< 22 / 249 >

この作品をシェア

pagetop