トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-
奏くんの呼吸が落ち着いていることを何度も確認する。

規則正しい呼吸。

脈拍も先ほどよりは安定していた。

まだ熱は高い。

でも少なくとも今は眠れている。

それだけで少し安心した。

私はそっと立ち上がる。

毛布を整え。

冷えピタを確認して。

静かに寝室を出た。

ドアを閉める直前。

眠る奏くんの顔が視界に入る。

やっぱり苦しそうだった。

眠っているはずなのに眉間には皺が寄っている。

夢の中でも戦っているみたいに。

胸が痛くなった。

私は小さく息を吐いてリビングへ戻る。

そしてスマホを取り出した。

連絡先を開く。

梓。

迷わず発信ボタンを押した。

数回のコール音の後、すぐに繋がる。

『紗凪?』

落ち着いた声。

その声を聞いただけで少し安心する。

「梓」

『うん』

『優朔から話聞いてる』

開口一番だった。

きっと記事も見たのだろう。

梓の声はいつも通り冷静だったけれど、その奥に心配が滲んでいた。

『奏くん大丈夫なの?』

私は寝室へ視線を向ける。

「高熱なの」

『何度?』

「39.8」

数秒沈黙。

そして梓の声が低くなる。

『……高いね』

「うん」

『ストレス性?』

「それもあると思う」

「寝不足もあるし」

「過呼吸も起こした」

電話の向こうで小さく息を吐く音がした。

『今病院来れる状態じゃないよね』

「無理だと思う」

今の奏くんを病院へ連れていくなんて現実的じゃない。

体力的にも。

精神的にも。

そして何より。

世間的にも。

今病院へ連れて行けば、誰かに見られる可能性がある。

それだけは避けたかった。

私は少しだけ声を落とす。

「お願いがある」

梓がすぐに意図を理解した。

『訪問診療?』

「そう」

「一回ちゃんと先生に診てほしい」

「私も見てるけど」

「精神的なものだけじゃない気がする」

熱発。

脱水。

極度の疲労。

身体が限界を超えている。

看護師としてそう感じていた。

電話の向こうで少しだけ物音がする。

梓が立ち上がったのだろう。

『分かった』

『救急の先生捕まえる』

私はほっと息を吐く。

『私も一緒に行く』

『私にも支えさせて』

その言葉に胸が少し熱くなった。

本当に。

昔から変わらない。

『今ER落ち着いてるから、師長にも話してみる』

「ありがとう」

『お礼なんていらないわよ』

梓が言う。

そして最後に。

少しだけ優しい声になった。

『紗凪』

「ん?」

『紗凪も無理しちゃダメだからね』

その一言に。

思わず苦笑してしまう。

「うん、わかった」

『じゃあ準備して救急の先生と私でそっち向かうね』

「ありがとう、おねがい」

『また着いたら連絡する』

そして。

ガチャ。

通話が切れた。

私はスマホを握ったまま数秒立ち尽くす。

その時だった。

背後から声がする。

「梓ちゃん?」

振り返る。

そこには陽貴くんが立っていた。

不安そうな顔。

私は小さく頷く。

「救急の先生と一緒に来てくれるって」

その瞬間。

陽貴くんが目を閉じて深く息を吐いた。

少しだけ。

安心したように見えた。
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