トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-
寝室へ入ると奏くんは変わらず眠っていた

頬は赤く、額には汗が滲んでいる

日橋先生はベッドの横へ腰を下ろすと、まず顔色を確認した

「高いな」

短い一言

その声だけで、やはり熱はかなり出ているのだと分かる

先生は奏くんの名前を呼ぶ

「桜庭くん」

反応はない

もう一度

「桜庭くん、聞こえる?」

今度は少しだけ眉が動いた

完全な意識消失ではない

呼びかけへの反応はある

先生は小さく頷く

「意識レベルは問題ないな」

そう言いながらペンライトを取り出した

瞼を軽く開き、瞳孔を確認する

左右差なし、対光反射も正常

続いて手首へ触れる

脈拍、そして呼吸状態

胸郭の動きを静かに観察する

私は自然と隣で報告する

「さっき測った時は脈拍110前後でした」

「熱発後?」

「はい」

先生は頷く

「発熱による頻脈だろうな」

そして体温計を確認する

再測定

数十秒後

表示された数字は39.2℃

「少し下がったな」

私はほっと息を吐く

冷却と安静が効いているらしい

次に先生は聴診器を首へかけた

「失礼」

胸部聴診

前胸部

側胸部

背部

一箇所ずつ丁寧に確認していく

部屋は静かだった

聞こえるのは聴診器が服を擦る音だけ

「肺音は綺麗」

「喘鳴なし」

「湿性ラ音もなし」

つまり肺炎などの所見は今のところなさそうと言う事

続いて血圧計を巻く

測定結果を見ながら先生は言う

「血圧は問題なし」

「脱水は少しありそうだな」

その後

首のリンパ節、咽頭、口腔内

腹部の触診

一通りの身体診察が進む

私は久しぶりに純粋な医療の空気を感じていた

ICUでもERでもない

でも患者を診るという本質は同じだった

診察を終えた日橋先生が椅子へ座る

梓もカルテ代わりのタブレットへ記録を入力している

私は少し緊張しながら聞いた

「先生、どうですか」

日橋先生は奏くんを見た

そして静かに答える

「現時点では重篤な身体疾患を疑う所見はない」

その言葉に少し安心する

先生は続けた

「ただし」

その一言で再び空気が引き締まる

「身体は限界だな」

低い声

「極度のストレス」

「睡眠不足」

「食事不足」

「脱水」

先生は奏くんの寝顔を見る

「身体が強制的にブレーキをかけた状態だ」

私は思わず奏くんを見る

確かにそうかもしれない

今まで張り詰めていた糸が切れたのだ

「入院レベルですか?」

私が聞く

先生は少し考えた

「本来なら入院して経過観察で採血したい」

「ただ」

先生も事情は分かっている

今の奏くんを病院へ連れて行くリスク

それを理解した上で言う

「今のところ呼吸循環は安定してる」

「意識も問題ない」

「水分が摂れて、熱がさらに上がらなければ自宅管理でもいい」

私は小さく頷く

梓も安心したように息を吐いた

すると先生が少し表情を柔らかくした

「とりあえず点滴しよう」

日橋先生が立ち上がる

「七瀬、ルート取って」

「はい」

梓が即座に返事をして慣れた手つきで持参していたバッグを開く

駆血帯

留置針

生食

テープ

必要物品が次々と並べられていく

私は思わず苦笑した

「ほんとに病院みたい」

すると梓が肩をすくめる

「病院から来たし」

その返答に日橋先生が小さく笑った

張り詰めていた空気が少しだけ緩む

ベッドでは奏くんが眠ったままだ

梓はそっと奏くんの腕を取る

「血管はいいね」

「若いし」

そう言いながら前腕を観察する

アルコール綿で消毒

留置針を刺入

逆血確認

フラッシュ

固定

全てが数十秒で終わった

相変わらず手際がいい

「ルート確保できました」

「ありがとう」

日橋先生が頷く

そのまま点滴ラインを接続する

「生食500でいこう」

「まず脱水補正」

滴下が始まる

透明な輸液がゆっくり落ちていく

その様子を見ながら私は少し安心した

少なくとも今は身体を休ませることができる
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