夜風にさらわれたお姫様
昼過ぎ。
榴愛は心桜と街へ出ていた。
もちろん護衛付き。
少し離れた場所に燐斗と蒼空がいる。
「完全にVIP待遇だね」
心桜が笑う。
「いや恥ずかしいんだけど……」
「煌夜が心配症すぎるんだよ」
確かに。
今朝も。
『一人になるな』
『知らない奴についてくな』
『危なかったらすぐ連絡』
完全に過保護だった。
「でも嬉しいんでしょ?」
「……」
図星だった。
心桜が吹き出す。
「顔分かりやすー」
「もうやだ……」
二人はショッピングモールを歩く。
普通の女の子みたいな時間。
それが少し嬉しかった。
「ねぇ榴愛」
「ん?」
「幸せそう」
心桜が優しく笑う。
榴愛は少し驚いた。
「……そうかな」
「うん」
榴愛は小さく笑う。
怖いことはたくさんある。
でも。
煌夜がいると安心する。
白鴉組のみんなといると笑える。
そんな毎日が、少しずつ大切になっていた。
その時。
「きゃっ!?」
突然、人とぶつかった。
「あ、ごめんなさ……」
顔を上げた瞬間。
男が榴愛を見て目を細める。
「……あんた」
嫌な空気。
心桜の表情が変わった。
「榴愛、下がって」
男はニヤリと笑う。
「白城煌夜の女、ねぇ」
ゾッとした。
周囲の空気が張り詰める。
すると。
「お兄さん」
低い声。
燐斗が前へ出た。
普段穏やかな彼の目が冷たい。
「うちのお姫様に何か?」
蒼空も笑顔を消している。
男は舌打ちした。
「……白鴉か」
そのまま去っていく。
榴愛は震える手を握った。
やっぱり。
“煌夜の女”になったことで、世界が変わってしまった。