夜風にさらわれたお姫様
夜。
榴愛は自室で落ち着かずにいた。
時計を見る。
22時半。
遅い。
何も連絡がない。
「……」
怖い想像ばかり浮かぶ。
怪我したら。
戻って来なかったら。
その時。
ガチャ。
「っ!」
勢いよく立ち上がる。
扉の向こう。
「……煌夜!」
煌夜が立っていた。
少し服が乱れている。
でも無事だ。
榴愛は安心した瞬間、目頭が熱くなった。
「おかえりなさい……!」
煌夜は少し驚いた顔をした。
「……泣くほど心配だった?」
「だって……!」
榴愛が涙目になると、煌夜は苦笑した。
「悪ぃ」
部屋へ入ってくる。
その瞬間。
榴愛は気付いた。
「っ……血!?」
煌夜の手の甲が切れていた。
「これくらい平気」
「平気じゃないの!」
榴愛は慌てて救急箱を持ってくる。
煌夜は少し楽しそうにそれを見ていた。
「怒ってる」
「当たり前!」
榴愛は消毒液をつける。
「しみる?」
「全然」
「強がりだなんだから」
「事実」
榴愛はむっとした。
すると。
煌夜が榴愛の頬をつつく。
「怒った顔も可愛い」
「っ……!」
ずるい。
こんな時にそんなこと言うなんて。
榴愛は絆創膏を貼りながら小さく呟く。
「……怖かった」
煌夜の手が止まる。
「……」
「煌夜が帰ってこなかったらって考えたら……」
声が震えた。
その瞬間。
ぐい。
「きゃっ」
煌夜が榴愛を抱き寄せた。
強い腕。
安心する匂い。
「帰ってきただろ」
低い声。
榴愛は煌夜の胸へ顔を埋める。
「……無茶しないで」
「努力はする」
「絶対じゃないのね」
「裏の世界に絶対はねぇから」
その言葉が苦しかった。
榴愛は煌夜の服をぎゅっと掴む。
「……嫌」
「ん?」
「煌夜がいなくなるの」
沈黙。
その後。
煌夜が小さく息を吐いた。
「……そんな顔されたら」
「?」
「本当に離れられなくなる」
榴愛の心臓が跳ねる。
煌夜が顔を覗き込んだ。
「責任取れよ」
「へ!?」
「俺、お前にかなり重いぞ」
「い、今更だよ……!」
煌夜が吹き出した。
「何それ」
「だってもう遅いじゃないの!」
「確かに」
煌夜は笑いながら榴愛の額へキスを落とした。
優しいキス。
榴愛の胸が熱くなる。