夜風にさらわれたお姫様

その時。


コンコン!!

「煌夜ー!」

心桜の声。

「生きてるー?」

「うるせぇ」

「ご飯できたってー」

煌夜はため息を吐いた。

榴愛は少し笑う。

平和な日常。


でも。

その裏では確実に抗争が近付いている。

広間へ向かうと、組員たちが集まっていた。

「おかえり煌夜」

「怪我大丈夫?」

「問題ねぇ」

駿が椅子へ座りながら言う。

「最近黒崎組マジで殺気立ってるな」

「竜人が動いてるらしい」

依吹の言葉に空気が変わる。


黒崎竜人(くろさきりゅうしん)。

黒崎組若頭。

まだ直接会ったことはない。

でも名前だけで緊張感が走る。

「榴愛ちゃん」

燈香が優しく微笑む。

「怖かったでしょう?」

「……少し」

「大丈夫よ」

燈香は柔らかく言った。

「白鴉組は家族を守る組織だから」

家族。

その言葉に胸が温かくなる。

煌夜が榴愛を見る。

「聞いたか」

「……うん」

「だから頼れ」

その目は真っ直ぐだった。

榴愛は小さく笑う。

「じゃあ甘える」

「いくらでも」

即答。

周囲が騒ぎ始める。

「うわ彼氏面」

「実際彼氏だろ」

「姫ちゃん愛されてんなぁ」

榴愛は恥ずかしくなった。


でも。

少し嬉しかった。


窓の外では夜風が吹いていた。

夜坂街は静かに荒れ始めている。

月夜の牙戦。

その大きな戦いが、確実に近付いていた。
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