夜風にさらわれたお姫様
数日後。
久しぶりに少し穏やかな朝だった。
広間では組員たちが騒いでいる。
「姫ちゃん朝から幸せそう」
蒼空がニヤニヤする。
「顔に出てるっす」
「そ、そんなことない!」
「ある」
煌夜が即答した。
榴愛は真っ赤になる。
「煌夜!」
「可愛いからいい」
「うわ朝から甘っ」
駿が笑う。
依吹は呆れたようにコーヒーを飲んでいた。
「平和ですねぇ」
その時。
ガチャ。
広間の扉が開く。
空気が変わった。
入ってきたのは、数人の白鴉組組員。
その表情が険しい。
「煌夜さん」
「……何だ」
「南区画で抗争発生」
広間が静まる。
「とある組織が黒崎組と衝突しました」
依吹が目を細めた。
「……始まったか」
「被害は?」
「かなり大きいです」
空気が重くなる。
夜坂街は完全に戦場になり始めていた。
榴愛はその空気を感じながら、小さく拳を握る。
怖い。
でも。
逃げたくない。
その時。
煌夜が榴愛の手を握った。
「……」
「そんな顔すんな」
「でも」
「俺は帰ってくる」
真っ直ぐな声。
榴愛は静かに頷いた。
「……待ってる」
煌夜が少し笑う。
「いい子」
また頭を撫でられる。
恥ずかしいのに。
安心する。