私が拾ったのは、千年前の皇子様でした

第30話 二つで一つ

私はどうしても勾玉のことが気になり、
上野の国立博物館を訪れていた。

「すごいものばっかり……」

展示を一つひとつ眺めながら歩く。

古代の展示室へ足を踏み入れた瞬間、不思議な懐かしさが胸をよぎった。

どうしてだろう。

初めて来たはずなのに。

どこか、知っている場所のような気がする。

土器や土偶。

昔の人々が使っていた道具。

どれも見覚えはないはずなのに、自然と足が止まってしまう。

「これは……?」

一冊の古い書物が展示されていた。

びっしりと並ぶ古い文字。

「全然読めないや」

苦笑しながら通り過ぎようとした、その時だった。

『木梨軽皇子』

その文字だけが、なぜか目に飛び込んできた。

「木梨軽皇子……?」

知らないはずの名前。

なのに。

胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。

懐かしい。

会いたい。

そんな気持ちが込み上げてきた。

私はその場を離れ、さらに奥へ進む。

そこには、美しい勾玉が展示されていた。

「綺麗……」

思わず呟く。

「綺麗ですよね。その勾玉」

突然、隣から声がした。

「きゃっ!」

驚いて一歩後ずさる。

「すみません。驚かせてしまいました」

声をかけてきたのは、一人の男性だった。

穏やかな笑顔を浮かべている。

「僕は、この博物館で学芸員をしています」

「勾玉をこんなに熱心に見てくださる方がいて、つい嬉しくなってしまって」

そう言って照れくさそうに笑うと、ポケットから携帯電話を取り出した。

「あっ」

思わず声が漏れる。

携帯電話には、私のストラップとよく似た勾玉が付いていた。

違うのは色だけ。

「色違いですね」

私もスマホを取り出して見せる。

男性は嬉しそうに笑った。

「本当だ」

「偶然ですね。」

それから彼は、展示されている勾玉の歴史や意味を楽しそうに話してくれた。

正直、内容は半分も頭に入ってこなかった。

それよりも。

一生懸命話すその横顔が、どうしても気になってしまう。

どこかで見たことがあるような。

初めて会ったはずなのに。

「そういえば」

私はふと口を開いた。

「ガラケーなんですね。」

「ああ」

男性は少し照れ笑いを浮かべる。

「スマホって便利そうなんですけど……どうも使いこなせる気がしなくて」

頭をかく仕草が、なんだか可笑しくて思わず笑ってしまった。

でも。

その笑顔を見た瞬間。

胸の奥が、少しだけ痛んだ。

私は気づけば、自然と言葉を口にしていた。

「……あの」

男性は不思議そうにこちらを見る。

「私たち」

少しだけ息を吸う。

「どこかで、お会いしたことありませんか?」

男性は驚いたように目を丸くした。

そして少しだけ困ったように笑う。

「僕も……同じことを、聞こうと思っていました」
< 135 / 136 >

この作品をシェア

pagetop