私が拾ったのは、千年前の皇子様でした
「旅行とはなんなのだ?」

「だからぁ……」

今、私は幼稚園児でもわかるように、
何度も「旅行」について説明している。

それでも、古墳時代の方からすると、
意味がわからないようだ。

つまり私は、「社員旅行」の話がしたいのに、
「旅行」の部分で話が止まってしまっている。

悠真からすると、男女大勢で、
同じ場所へ行き、同じ場所で寝泊まりする。

そんなのが、信じられないのだろう。

そして、さらにめんどくさいのがこれ。

「あの冷たい男もいるのか?」

冷たい男とは、一ノ瀬部長のことだ。

とにかく悠真は、部長のことが、
気に食わないらしい。

まぁ、そんなことはどうでもいい。

とにかく、話を続けよう。

というか、ぶち抜こう。

「やはり旅行はーー」

「旅行、旅行うるさい!」

そう言って私は、奈良の旅行雑誌を、
悠真の顔に押し付けた。

「何をぉずる」

「私たちは、ここに行くの」

「近すぎて見えぬ」

悠真は顔から雑誌を引き剥がし、
ページを捲り始めた。

すると、突然、悠真の手が止まった。

「どうしたの?」

そう言って覗き込むと、そこには大きく、
「大和」と書いてあった。

「これがどうかしたの?」

雑誌を見つめたままの悠真に聞く。

「ヤマト……」

そうか。

悠真が昔、住んでいた場所。

それは「奈良」なんだ。

「そうですね。懐かしい場所ですね」

思わず、口から出た言葉は、
私の意思とは全く関係なく発せられた言葉だった。

「千紘、今なんと?」

悠真は驚いた表情でこちらをみている。

でも、一番驚いているのは私だ。

自分の声だった。

でも、自分の言葉じゃなかった。

まるで誰かの記憶が、
一瞬だけ口を借りたようだった。

「ううん。何も言ってないよ」

戸惑いながらも、これ以上、
何か変なことが起きないように、
知らないふりをした。

「そうか。千紘は今の世の大和へ行くのか」

悠真は何かを考えるように、
私をじっと見つめた。

「今回はいろんなところ回るみたいだし、たくさん写真とか撮ってくるよ」

「ありがとう。でも、千紘が楽しんでくれるのが、一番だ」

そう言って、悠真はいつものように優しく笑った。

でも、私には、その笑顔の裏に、
何か感情が隠れているような気がした。

「夕ご飯ができている。冷めぬうちに食べよう」

そう言われ、私はその違和感を、
気のせいにすることにした。
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