私が拾ったのは、千年前の皇子様でした

第12話 社員旅行。一日目。

そうこうしているうちに、
社員旅行の日がやっていてしまった。

キャリーケースを持って、
家を出ていく私に、

「留守は任せておけ!」

そう、自信満々に宣言した悠真。

不安が残るものの、
何かあった時のために、
携帯もあるのだから大丈夫だろう。

そう私は自分に言い聞かせて、
家を後にした。

集合場所に着くと、部長とそれ以外の、
お偉いさんたちもいた。

早くきすぎたかな……

そう身を隠そうとした時だった。

「何を逃げようとしている」

と、肩に手が置かれ、
聞き覚えのある声がした。

「一ノ瀬部長、おはようございます」

慌てて、挨拶をする。

「お偉いさんたちがたくさんだからと、逃げるのはどうかと思うぞ」

「いや、そんな逃げようだなんて」

私は必死に首を振る。

「冗談だ。少し手伝ってくれるか?」

部長はいたずらに笑うと、
私をこき使い始めた。

お偉いさんの荷物運びや、社員の誘導。

時給くらい出してほしいくらいの労働量だ。

そんなことを心の中で考えていると、

「手伝ってくれた礼はする」

そう言って部長は去っていった。

礼って何?

怖いんですけどーー

そんな私の心配をよそに、
社員を乗せたバスは駅へと向かった。

そこからは長旅だった。

まず東京駅から、京都まで新幹線。

そして、京都から奈良までは長いバス旅だった。

正直、奈良なんて中学の修学旅行以来。

全く記憶なんてない。

隣の席に座る結奈ちゃんは、
思いの外、楽しそうにしていた。

一日目は有名な奈良公園周辺。

「鹿多すぎ」

「つ、ツノが!」

とにかくお寺や仏像よりも、
私は鹿が怖かった。

そのあとは、奈良市内のホテルに泊まった。

結奈ちゃんと二人部屋。

今日一日だけで、すごく疲れた。

奈良公園といっても、すごく広い。

世界遺産、国宝が山のようにある。

でも、今日見たものは、
悠真が生きていた時代よりも、
何百年も後に作られたものだった。

「それで〜実のところどうなんですか〜?」

急に隣のベットから身を乗り出してくる結奈ちゃん。

相変わらず、恋話がお好きなようで。

「特に何もないけど」

そっけなく返す。

「でも、今日の朝、部長に耳打ちされてましたよね?」

「……っ」

さすが結奈ちゃん、鋭い観察眼だ。

「でも、業務的な話だけだったよ」

そう言って誤魔化す。

「ほんとかな〜?」

結奈ちゃんはどこまでも疑ってくる。

「もういいでしょ!明日も早いんだから寝るよ!」

そう言って、私は電気を消した。

でも、その時の結奈ちゃんの顔は想像できてしまった。

部屋は静寂に包まれた。

窓の外からは、
秋の虫の声が聞こえる。

不思議だ。

初めて来たはずなのに。

奈良の夜は、
どこか懐かしい気がした。

そして私は、
ゆっくりと眠りへ落ちていった。
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