True Love─最初の恋、最後の愛─
9.夜空に浮かぶ月
「だから、違うって──!」
自分の席で仕事をしていると、良祐が部長と一緒に入ってきた。
部長はまだ、良祐が私を泣かせた、と思っているらしい。
「椎平、本当にこいつに泣かされたんじゃないんだな?」
「……課長に泣かされました」
「ほら、早瀬!」
「でも、部長、違うんです、課長の家のことで……嬉しいお知らせがあって、それで私も嬉し泣きしてただけです」
「ああ……おまえら、実家は隣なんだったな」
部長はようやく納得してくれて、でも自分の席に着くまで、ずっと良祐に小言を言っていた。
自分の席に着いてからは、新年会したいな、と周りの人たちと話していた。
「そうだ、タマちゃん、さっきごめんね」
「いえ、良いですよ。それより、課長と」
「本当に、家の話だよ」
部長にもタマちゃんにも、嘘はついていない。
私は本当に良祐に泣かされたし、家の話をしたのも事実。
久々にぐっすり眠った翌朝は、良祐からLINEが届いていた。
『今日、仕事納めだし、飲みに行かない? いろいろ話もしたいし』
『行く! 仕事も早めに終わらせるよ!』
『夜はうちに泊めてやるから、着替えを忘れないように』
その文章を見てから、数秒固まってしまったけれど。
嬉しくて、喜んで、笑顔で仕事をしてるから、タマちゃんには夜の予定はすぐにバレてしまった。
「でも先輩……相変わらず、仕事が山積みなんですけど」
「……大丈夫、気合いで終わらせる」
もちろんそんな保証はなかったけれど。
そう思わないと、仕事は終わらない。
夕方になって周りはぽつぽつと帰っていって、タマちゃんも既に帰ってしまっていて。
私も早く帰りたいな、今日は良祐と飲めるんだ、そしてその後はどうするのかな……と考えながら、仕事を片づけていると。
「ったく。おまえは仕事が恋人かっ!」
「え?」
声のしたほうを見ると、良祐が片手で鍵束を弄びながらタマちゃんの席にどかりと座っていた。
「いつまで待たせんだよ。おまえの恋人は俺だぞ」
もしかして、と思って振り返ると、事務所内には私と良祐しか残っていなかった。
早く終わらせるとLINEしておいて、また最後まで残ってしまっていた。
「ごめんっ、ほんとにごめん!」
「……仕事は終わりそうなのか? 終わるまで待ってやるよ」
「うん……大丈夫。続きは来年するよ」
「良いのか? 俺は別に、急がないぞ」
良祐は私を見つめた。
「今日は帰すつもりもねえし」
彼が言いたいことが分かり、視線を反らしてしまう。
「……とにかく、もう出よう? ごめんね、待たせて」
机の上を適当に片付けて、私は良祐と並んで会社を出た。
北風の吹きつける年の瀬の午後八時、オフィス街から人の姿はほとんど消えていた。
歩道と車道の境界に植えられた街路樹は、綺麗にライトアップされていた。
「クリスマスに見たかったな……」
街路樹からぼんやり月に目をやると、ほら、という良祐の声がした。
「ん? なに?」
「──手、繋ぐんだろ? ……なんだよ、何かおかしいのか? 恋人って歩くとき手を繋ぐもんじゃないのか……?」
良祐は左手を差し出したまま困惑していた。
彼に駆け寄ってから手を繋ぐと、私はそのまま指を絡めた。
駅の近くの飲み屋街は、オフィス街と対照的にものすごく賑わっていた。
何も決めずに出てきたから、店先の看板を見ながら歩く。
「どれも美味そうだなぁ……幹奈、おまえ何食べたい?」
「んー……こないだタマちゃんと洋食食べたから、和食が良いな」
「それなら、俺も日本酒呑みたいし……まぁ、最近の店は、だいたい何でもあるけどな……」
待ち時間なしでご案内できます、と声を上げているアルバイトに誘われ、私と良祐はカップルシートに案内された。
個室で二人になれるのは嬉しかったし、カップル割引まであるなんて!
「今日は──好きなだけ飲んで良いぞ。でも、ほどほどにな」
乾杯してから、いろんなことを話しあった。
ご飯も美味しくて会話も弾んで、二時間後にはお腹も心もいっぱいになった。
「まだ起きてたのか? さっきは眠そうにしてたし、寝てて良かったのに」
「うん……でも、良祐のベッドだし……」
「何言ってんだよ、もう俺たちのもんだ。自由に使えよ」
お店を出てから酔い冷ましに夜風を浴びながら歩き、電車に乗って、良祐の部屋まで来た。
帰りの電車は眠くて良祐の肩を借りてしまったけれど、今はなぜだか眠れない。
先にお風呂に入らせてもらってベッドに座って部屋を見渡しながら、良祐がお風呂から出てくるのを待っていた。
「お風呂入ったら目が覚めちゃった」
「それでも、布団には入ってろよ。ああ……そうか、バツがまだだったな。残業してたバツ。目が覚めたんならちょうどいい」
良祐は片づけを終えるとベッドにやってきて、息を奪うように唇を重ねてきた。
彼とは何度もキスをしてるし、されるのはもちろん嬉しい。
だから『キスがバツ? まさかね……』と呑気に思ってた──けれど、彼はなかなか解放してくれない。今までにないほど深く長く、息もできないくらい激しかった。
「……良、祐……どうしたの……」
「バツだよ。おまえ、こういうの弱そうだったから。でも、その顔……満足そうだな」
お酒のせいなのかキスのせいなのか、判断は難しい。
唇には甘い痺れが残っていて、思考もはっきりしない。良祐は再び唇を重ね、私を力いっぱい抱きしめる。背中を撫でる腕が、腰のほうへ下りる。
「……幹奈、もしかしてパジャマのした……何も着けてない?」
「うん。それがどうかしたの?」
「あのなぁ。こないだ言ったこと覚えてるか? おまえの部屋でやったあと」
「え? ……あっ! 変態良祐!」
「こら、変態とか言うな。おまえ以外、誰にも欲情しねーし」
私が抵抗するも空しく、良祐は簡単に私の衣服を剥ぎ取ってしまった。
私だって、こんなに求めてしまうのは良祐が初めてだ。
良祐のことが好きな気持ちは──止められなかった。
自分の席で仕事をしていると、良祐が部長と一緒に入ってきた。
部長はまだ、良祐が私を泣かせた、と思っているらしい。
「椎平、本当にこいつに泣かされたんじゃないんだな?」
「……課長に泣かされました」
「ほら、早瀬!」
「でも、部長、違うんです、課長の家のことで……嬉しいお知らせがあって、それで私も嬉し泣きしてただけです」
「ああ……おまえら、実家は隣なんだったな」
部長はようやく納得してくれて、でも自分の席に着くまで、ずっと良祐に小言を言っていた。
自分の席に着いてからは、新年会したいな、と周りの人たちと話していた。
「そうだ、タマちゃん、さっきごめんね」
「いえ、良いですよ。それより、課長と」
「本当に、家の話だよ」
部長にもタマちゃんにも、嘘はついていない。
私は本当に良祐に泣かされたし、家の話をしたのも事実。
久々にぐっすり眠った翌朝は、良祐からLINEが届いていた。
『今日、仕事納めだし、飲みに行かない? いろいろ話もしたいし』
『行く! 仕事も早めに終わらせるよ!』
『夜はうちに泊めてやるから、着替えを忘れないように』
その文章を見てから、数秒固まってしまったけれど。
嬉しくて、喜んで、笑顔で仕事をしてるから、タマちゃんには夜の予定はすぐにバレてしまった。
「でも先輩……相変わらず、仕事が山積みなんですけど」
「……大丈夫、気合いで終わらせる」
もちろんそんな保証はなかったけれど。
そう思わないと、仕事は終わらない。
夕方になって周りはぽつぽつと帰っていって、タマちゃんも既に帰ってしまっていて。
私も早く帰りたいな、今日は良祐と飲めるんだ、そしてその後はどうするのかな……と考えながら、仕事を片づけていると。
「ったく。おまえは仕事が恋人かっ!」
「え?」
声のしたほうを見ると、良祐が片手で鍵束を弄びながらタマちゃんの席にどかりと座っていた。
「いつまで待たせんだよ。おまえの恋人は俺だぞ」
もしかして、と思って振り返ると、事務所内には私と良祐しか残っていなかった。
早く終わらせるとLINEしておいて、また最後まで残ってしまっていた。
「ごめんっ、ほんとにごめん!」
「……仕事は終わりそうなのか? 終わるまで待ってやるよ」
「うん……大丈夫。続きは来年するよ」
「良いのか? 俺は別に、急がないぞ」
良祐は私を見つめた。
「今日は帰すつもりもねえし」
彼が言いたいことが分かり、視線を反らしてしまう。
「……とにかく、もう出よう? ごめんね、待たせて」
机の上を適当に片付けて、私は良祐と並んで会社を出た。
北風の吹きつける年の瀬の午後八時、オフィス街から人の姿はほとんど消えていた。
歩道と車道の境界に植えられた街路樹は、綺麗にライトアップされていた。
「クリスマスに見たかったな……」
街路樹からぼんやり月に目をやると、ほら、という良祐の声がした。
「ん? なに?」
「──手、繋ぐんだろ? ……なんだよ、何かおかしいのか? 恋人って歩くとき手を繋ぐもんじゃないのか……?」
良祐は左手を差し出したまま困惑していた。
彼に駆け寄ってから手を繋ぐと、私はそのまま指を絡めた。
駅の近くの飲み屋街は、オフィス街と対照的にものすごく賑わっていた。
何も決めずに出てきたから、店先の看板を見ながら歩く。
「どれも美味そうだなぁ……幹奈、おまえ何食べたい?」
「んー……こないだタマちゃんと洋食食べたから、和食が良いな」
「それなら、俺も日本酒呑みたいし……まぁ、最近の店は、だいたい何でもあるけどな……」
待ち時間なしでご案内できます、と声を上げているアルバイトに誘われ、私と良祐はカップルシートに案内された。
個室で二人になれるのは嬉しかったし、カップル割引まであるなんて!
「今日は──好きなだけ飲んで良いぞ。でも、ほどほどにな」
乾杯してから、いろんなことを話しあった。
ご飯も美味しくて会話も弾んで、二時間後にはお腹も心もいっぱいになった。
「まだ起きてたのか? さっきは眠そうにしてたし、寝てて良かったのに」
「うん……でも、良祐のベッドだし……」
「何言ってんだよ、もう俺たちのもんだ。自由に使えよ」
お店を出てから酔い冷ましに夜風を浴びながら歩き、電車に乗って、良祐の部屋まで来た。
帰りの電車は眠くて良祐の肩を借りてしまったけれど、今はなぜだか眠れない。
先にお風呂に入らせてもらってベッドに座って部屋を見渡しながら、良祐がお風呂から出てくるのを待っていた。
「お風呂入ったら目が覚めちゃった」
「それでも、布団には入ってろよ。ああ……そうか、バツがまだだったな。残業してたバツ。目が覚めたんならちょうどいい」
良祐は片づけを終えるとベッドにやってきて、息を奪うように唇を重ねてきた。
彼とは何度もキスをしてるし、されるのはもちろん嬉しい。
だから『キスがバツ? まさかね……』と呑気に思ってた──けれど、彼はなかなか解放してくれない。今までにないほど深く長く、息もできないくらい激しかった。
「……良、祐……どうしたの……」
「バツだよ。おまえ、こういうの弱そうだったから。でも、その顔……満足そうだな」
お酒のせいなのかキスのせいなのか、判断は難しい。
唇には甘い痺れが残っていて、思考もはっきりしない。良祐は再び唇を重ね、私を力いっぱい抱きしめる。背中を撫でる腕が、腰のほうへ下りる。
「……幹奈、もしかしてパジャマのした……何も着けてない?」
「うん。それがどうかしたの?」
「あのなぁ。こないだ言ったこと覚えてるか? おまえの部屋でやったあと」
「え? ……あっ! 変態良祐!」
「こら、変態とか言うな。おまえ以外、誰にも欲情しねーし」
私が抵抗するも空しく、良祐は簡単に私の衣服を剥ぎ取ってしまった。
私だって、こんなに求めてしまうのは良祐が初めてだ。
良祐のことが好きな気持ちは──止められなかった。