True Love─最初の恋、最後の愛─
10.お正月
家族全員が揃うのは年数回で、中でも美味しいものをたくさん食べられるお正月が私は大好きだ。
中には特に美味しいとは思わない縁起担ぎの食品もあるけど、それはそれで満足してたりする。
「幹奈もねぇ、そろそろ結婚しないとねぇ」
「……良いよ、別に。それに、仕事が忙しくてそれどころじゃないし」
良祐との関係は彼が言うまで黙ってる、と約束していた。
だから、本当は良祐との結婚を考えていることも、母親にもまだ言えていない。もしバレそうになったら言っても良いとは聞いたけど、やっぱり良祐に言ってもらおうと思う。
「こないだ、あんたの誕生日、隣の良祐君が来てたけど、あんたのとこ行ったの?」
忘れ物を届けに行きたいって言ってたかしらねぇ、なんて言いながら、母親は届いた年賀状を一枚ずつ読んでいた。ちなみに他の家族たちは、初詣に出かけたり、友達に会ったり、部屋で寝たりしている。
「うん、来たよ」
「ねぇ、良祐君とはどういう関係なの? 小さい頃は仲良かったじゃない」
「……中学くらいからそんなに話してないって、知ってるでしょ? 会社が一緒だから仕方なく話すけど、それ以外はないし」
嘘をつくのは本当に難しい。
本当は大好きな相手を、悪く言うのは嫌だ。
「そういえばあいつ、実家をリフォームするとか言ってたけど、本当なの?」
「そうそう。……そうだったわ、良祐君、いつかお嫁さん連れて戻って、一緒に住むんだって」
「……ふぅん」
「幹奈も、お嫁に行かないとねぇ」
嘘をつくのが苦しくなってきたから、出していない年賀状を書くと言って私はパソコンを立ち上げた。会社のはメモリがいっぱいでなかなか動かないけれど、家のはサクサクだ。
インターホンが鳴って来客があったのは、午後一時頃だった。
隣に住む早瀬一家が新年のあいさつにやってきた──良祐と一緒に。
「おお? 良祐君か? 久しぶりだなあ! 立派になって! 入って入って!」
母親は良祐にはクリスマスに会ってるけれど、父親は何年振りかわからない。
良祐は長期休暇でも実家に戻ることはほとんどなかったのに、なぜか、両親と一緒に玄関に立っていた。
『なんで来るのよ!』
と、目で訴えてみたけれど、良祐にはスルーされた。彼の両親が私に何も言ってこないあたり、良祐はまだ、私とのことは話していないらしい。
早瀬家が三人揃ったから、という理由で、私も同席することになった。良祐に会えるのは嬉しいけれど、なんとなく空気が嫌だ。
「私たちも良祐が戻って来ると思わなかったから、ビックリしてるんですよ」
「泊まるつもりはないから。夜は帰るよ。……うちのリフォームは俺にも関係あるし、ちゃんと挨拶しときたかったから来た。すみません、しばらく、ご迷惑おかけします」
「良いのよそれくらい」
「それより良祐、あんた早く彼女を紹介しないさいよね」
「そうそう。良祐君には幹奈が小さいときお世話になったから、私も気になるし」
良祐は本当に、幼い頃から私の面倒をみてくれていた。
ただ、母親同士のその会話、ものすごく胃に悪い。
お願い良祐、なんとかして!
──と、願ったその時。
「はい──幹奈さんとは、結婚を前提に真剣にお付き合いさせていただいてます」
部屋の空気が一瞬、固まった。
……あのね、良祐。
そういうことを突然言われると、ものすごく逃げたくなるんだよ。
しかも両親たちの目が一斉に私に注目するし、お母さんなんか、飲みかけていたお茶を溢しそうになってるし。
「幹奈、あんたさっき、良祐君とは何もない、って」
「ごめん……でも、何も言うなって言われてて……」
「ちゃんと自分から言いたかったんです。だから、誰にも言わないようにって……すみません、嘘をつく形になってしまって」
「う、ううん。良いのよ……良祐君はかっこいいし、私も嬉しいわ」
「幹奈ちゃんが、うちのお嫁さんか……。賑やかになりそうだな」
両親たちはまさかの事実に困惑しながら、でも私と良祐のことはすぐに認めてくれた。
良祐が珍しく実家に帰ってきたのは、その挨拶のためだったんだね。
夕方、私は良祐と一緒に彼の部屋へ行った。
「もう、ビックリするよ。急に言うんだもん。しかも超マジメっぽいし」
真剣に頭を下げる良祐を見たら、誰も反対なんてできなかったと思う。
良祐があんなに丁寧に話すのは初めて聞いたかもしれない。
「やっぱ、緊張したな。おまえのうちのことは知ってるつもりだったけど、いざとなると……」
疲れた、反対されなくてホッとした、と言いながら、良祐はベッドに仰向けになった。
「ジャケット脱がないと、しわになるよ」
私は良祐を引っ張り起こして、着ていたジャケットを脱がせた。ハンガーにかけてフックに吊るし、彼の隣に座った。
「……あのときも、正月だったな」
「いつ?」
「おまえと初めて会ったとき。懐かしいな」
その時のことは、私はさすがに思い出せないけれど。
良祐が言うように、私も小さい頃から良祐が好きだった気がする。でもそれは、男の子としてじゃなくて、友達として。
大きくなって何人かの男の子と付き合って、その中にはもちろん結婚を考えるほど好きになった人もいて。でも結局は別れてしまって、最後は良祐を選んだ。
「ねぇ、良祐、今まで私以外で結婚しようと思った人、いた?」
「……いないよ。だいいち、本気で恋したこともなかったな。ガキんときおまえを好きになって……初恋がやっと叶った」
良祐は立ち上がり、ジャケットのポケットから何か出してきた。
そして私の前に来て、膝をついた。
「これ受け取ってくれるか?」
持っていたのは、小さなギフトボックス。
「幹奈──俺と結婚してくれ」
小さな箱の中で、銀色の指輪が静かに光っていた。
うまく息ができなかった。
「……はい」
見つめ合った瞳の奥に自分の姿が見えた。
良祐の隣で笑って、いつか子供たちと食卓を囲む未来。
中には特に美味しいとは思わない縁起担ぎの食品もあるけど、それはそれで満足してたりする。
「幹奈もねぇ、そろそろ結婚しないとねぇ」
「……良いよ、別に。それに、仕事が忙しくてそれどころじゃないし」
良祐との関係は彼が言うまで黙ってる、と約束していた。
だから、本当は良祐との結婚を考えていることも、母親にもまだ言えていない。もしバレそうになったら言っても良いとは聞いたけど、やっぱり良祐に言ってもらおうと思う。
「こないだ、あんたの誕生日、隣の良祐君が来てたけど、あんたのとこ行ったの?」
忘れ物を届けに行きたいって言ってたかしらねぇ、なんて言いながら、母親は届いた年賀状を一枚ずつ読んでいた。ちなみに他の家族たちは、初詣に出かけたり、友達に会ったり、部屋で寝たりしている。
「うん、来たよ」
「ねぇ、良祐君とはどういう関係なの? 小さい頃は仲良かったじゃない」
「……中学くらいからそんなに話してないって、知ってるでしょ? 会社が一緒だから仕方なく話すけど、それ以外はないし」
嘘をつくのは本当に難しい。
本当は大好きな相手を、悪く言うのは嫌だ。
「そういえばあいつ、実家をリフォームするとか言ってたけど、本当なの?」
「そうそう。……そうだったわ、良祐君、いつかお嫁さん連れて戻って、一緒に住むんだって」
「……ふぅん」
「幹奈も、お嫁に行かないとねぇ」
嘘をつくのが苦しくなってきたから、出していない年賀状を書くと言って私はパソコンを立ち上げた。会社のはメモリがいっぱいでなかなか動かないけれど、家のはサクサクだ。
インターホンが鳴って来客があったのは、午後一時頃だった。
隣に住む早瀬一家が新年のあいさつにやってきた──良祐と一緒に。
「おお? 良祐君か? 久しぶりだなあ! 立派になって! 入って入って!」
母親は良祐にはクリスマスに会ってるけれど、父親は何年振りかわからない。
良祐は長期休暇でも実家に戻ることはほとんどなかったのに、なぜか、両親と一緒に玄関に立っていた。
『なんで来るのよ!』
と、目で訴えてみたけれど、良祐にはスルーされた。彼の両親が私に何も言ってこないあたり、良祐はまだ、私とのことは話していないらしい。
早瀬家が三人揃ったから、という理由で、私も同席することになった。良祐に会えるのは嬉しいけれど、なんとなく空気が嫌だ。
「私たちも良祐が戻って来ると思わなかったから、ビックリしてるんですよ」
「泊まるつもりはないから。夜は帰るよ。……うちのリフォームは俺にも関係あるし、ちゃんと挨拶しときたかったから来た。すみません、しばらく、ご迷惑おかけします」
「良いのよそれくらい」
「それより良祐、あんた早く彼女を紹介しないさいよね」
「そうそう。良祐君には幹奈が小さいときお世話になったから、私も気になるし」
良祐は本当に、幼い頃から私の面倒をみてくれていた。
ただ、母親同士のその会話、ものすごく胃に悪い。
お願い良祐、なんとかして!
──と、願ったその時。
「はい──幹奈さんとは、結婚を前提に真剣にお付き合いさせていただいてます」
部屋の空気が一瞬、固まった。
……あのね、良祐。
そういうことを突然言われると、ものすごく逃げたくなるんだよ。
しかも両親たちの目が一斉に私に注目するし、お母さんなんか、飲みかけていたお茶を溢しそうになってるし。
「幹奈、あんたさっき、良祐君とは何もない、って」
「ごめん……でも、何も言うなって言われてて……」
「ちゃんと自分から言いたかったんです。だから、誰にも言わないようにって……すみません、嘘をつく形になってしまって」
「う、ううん。良いのよ……良祐君はかっこいいし、私も嬉しいわ」
「幹奈ちゃんが、うちのお嫁さんか……。賑やかになりそうだな」
両親たちはまさかの事実に困惑しながら、でも私と良祐のことはすぐに認めてくれた。
良祐が珍しく実家に帰ってきたのは、その挨拶のためだったんだね。
夕方、私は良祐と一緒に彼の部屋へ行った。
「もう、ビックリするよ。急に言うんだもん。しかも超マジメっぽいし」
真剣に頭を下げる良祐を見たら、誰も反対なんてできなかったと思う。
良祐があんなに丁寧に話すのは初めて聞いたかもしれない。
「やっぱ、緊張したな。おまえのうちのことは知ってるつもりだったけど、いざとなると……」
疲れた、反対されなくてホッとした、と言いながら、良祐はベッドに仰向けになった。
「ジャケット脱がないと、しわになるよ」
私は良祐を引っ張り起こして、着ていたジャケットを脱がせた。ハンガーにかけてフックに吊るし、彼の隣に座った。
「……あのときも、正月だったな」
「いつ?」
「おまえと初めて会ったとき。懐かしいな」
その時のことは、私はさすがに思い出せないけれど。
良祐が言うように、私も小さい頃から良祐が好きだった気がする。でもそれは、男の子としてじゃなくて、友達として。
大きくなって何人かの男の子と付き合って、その中にはもちろん結婚を考えるほど好きになった人もいて。でも結局は別れてしまって、最後は良祐を選んだ。
「ねぇ、良祐、今まで私以外で結婚しようと思った人、いた?」
「……いないよ。だいいち、本気で恋したこともなかったな。ガキんときおまえを好きになって……初恋がやっと叶った」
良祐は立ち上がり、ジャケットのポケットから何か出してきた。
そして私の前に来て、膝をついた。
「これ受け取ってくれるか?」
持っていたのは、小さなギフトボックス。
「幹奈──俺と結婚してくれ」
小さな箱の中で、銀色の指輪が静かに光っていた。
うまく息ができなかった。
「……はい」
見つめ合った瞳の奥に自分の姿が見えた。
良祐の隣で笑って、いつか子供たちと食卓を囲む未来。