True Love─最初の恋、最後の愛─
1.届いたプレゼント
それはものすごく優しくて、温かくて、溶けてしまいそうで──。
気がつくと私は、目の前の男を見つめていた。
クリスマスイブの夜、会社の同僚で幼馴染の早瀬良祐は、私の部屋に突然やってきた。
『忘れ物を届けに来た』
早瀬は冗談みたいに『俺を届けに来た』と言ったけれど。
その意味が、今ならちゃんと分かる。
『俺が──おまえのこと好きだって言ったら、信じるか?』
幼い頃はいつも一緒に遊んでいたけれど。
いつしかそれはなくなって、早瀬は私に嫌味ばかり言うようになった。
傷つきたくなくて避けていたけれど、本当は彼のことが好きだった。
会社でも特に女子社員たちは、早瀬が近づくだけで露骨に顔をしかめていた。
私も同じようにして、彼を好きな自分から目を逸らしていた。
『前に言っただろ、おまえは俺の嫁にしてやるって』
申し訳ないけれど、その言葉は全く記憶にない。
きっかけになった自分の言葉も、もちろん覚えていない。
早瀬が言うには『ガキんとき』。
三十年も前のことらしい。
ただひとつ分かっているのは、今、私の心は早瀬でいっぱいだということ。
どちらからともなくキスをして、しばらく見つめ合っていた。
クリスマスイブの夜。
なんとなくつけていたテレビは、いつの間にか早瀬が消していた。
何の飾り付けもしていない、普段と何も変わらない、ひとり暮らしの私の部屋。
「甘いな」
「……え?」
「クリーム付いてる」
早瀬は笑いながら顔を近付けてきた。
でもこれは、位置的に、なんかおかしい──。
口の端に、温かい感触が這う。
「良い歳して、こんなとこにクリームつけんなよ。ま、俺は良いけど」
早瀬が買ってきてくれたクリスマスケーキを食べながら、私は何度も彼の顔を見た。ケーキ屋のショーケースの前で注文する姿を想像すると、おかしくてつい頬を緩めてしまう。
クリスマスであって、私の三十二歳の誕生日。
ちなみに彼は私より二歳年上だ。
「ちょっと、自分で取るよ、見えてたなら言ってよ」
私は慌てて自分で口の端を触ってみたけれど。
「……嘘。何もついてねえよ。俺が舐めたかっただけ」
「ちょっと──! もう!」
「ははは、口は、本当に甘かったけどな」
楽しそうに笑う早瀬に、私は背中を向けた。
ものすごく久しぶりに仲良くしたと思ったのに、からかわれるのはあの頃と同じだった。
「もう、冗談はやめてよ……。もう、嫌だよ」
膝を抱えて小さくなって、俯いてしまう。
自分の部屋にいるはずなのに居心地が悪い。
早瀬をどうしようか、今日の出来事を忘れて帰ってもらおうか、と悩んでいると、後ろから彼の声が聞こえた。
「ごめん、俺が悪かった。謝るから、こっち向いてくれよ。俺だって、本当は──」
好きで言ったんじゃないんだ、長年の癖でつい言ってしまったんだ、という言葉は私の耳には届かなかったけれど。
早瀬との関係をこじらせたくなくて、私は彼に向き合った。
「椎平──今まで、長いこと傷つけてばっかりで、悪かった」
「……うん。傷ついた。でも、もう良いよ」
「本当か? 許してくれるのか?」
「昔のことはね。会社での嫌味は、まだ嫌だけど」
「それは──」
私だって、分かってる。
昔は私にだけ向いていた嫌味は、いつの間にか誰にでも向くようになった。
彼が普通に話す姿なんて、今さらきっと誰も想像できない。
だから、会社で普通に話したら、何かの噂をされる可能性はある。
「すぐには無理だろうけど。ちょっとずつやめていってくれればいいよ」
「ごめん……。それで、その、なんか、順番逆になっちまったけど」
「順番?」
「さっき、キスしたろ──俺まだ、おまえに何も」
付きあうとか付き合わないとか、言う言わないは特にこだわらないけれど。
どちらかといえば言ってもらった方が、気持ちが切り替わっていいとは思う。
さっきは空気に流されてそのまま彼を受け入れたけれど、早瀬はちゃんとけじめをつけたいらしい。
「おまえのこと──三十年間、ずっと好きだった。さっきも言ったけど、これは本当だ」
「三十年って……まさか」
笑いながらそう言うと、彼の顔は真剣になった。
真剣に私を見つめて、私も目を逸らすことができなかった。
「だって、三十年前って……私、まだ、幼稚園にも入ってないよ?」
「俺は幼稚園児だった。ずっと忘れなかった。さっきも言ったよな……三十年分の想いを軽くみるなって……俺、もう、いい加減、待てない……!」
「わっ、ちょっと、早瀬っ!」
既に私は早瀬の腕の中。
抱きしめられた耳元で、「幹奈が好きだ」と早瀬が言った。
気がつくと私は、目の前の男を見つめていた。
クリスマスイブの夜、会社の同僚で幼馴染の早瀬良祐は、私の部屋に突然やってきた。
『忘れ物を届けに来た』
早瀬は冗談みたいに『俺を届けに来た』と言ったけれど。
その意味が、今ならちゃんと分かる。
『俺が──おまえのこと好きだって言ったら、信じるか?』
幼い頃はいつも一緒に遊んでいたけれど。
いつしかそれはなくなって、早瀬は私に嫌味ばかり言うようになった。
傷つきたくなくて避けていたけれど、本当は彼のことが好きだった。
会社でも特に女子社員たちは、早瀬が近づくだけで露骨に顔をしかめていた。
私も同じようにして、彼を好きな自分から目を逸らしていた。
『前に言っただろ、おまえは俺の嫁にしてやるって』
申し訳ないけれど、その言葉は全く記憶にない。
きっかけになった自分の言葉も、もちろん覚えていない。
早瀬が言うには『ガキんとき』。
三十年も前のことらしい。
ただひとつ分かっているのは、今、私の心は早瀬でいっぱいだということ。
どちらからともなくキスをして、しばらく見つめ合っていた。
クリスマスイブの夜。
なんとなくつけていたテレビは、いつの間にか早瀬が消していた。
何の飾り付けもしていない、普段と何も変わらない、ひとり暮らしの私の部屋。
「甘いな」
「……え?」
「クリーム付いてる」
早瀬は笑いながら顔を近付けてきた。
でもこれは、位置的に、なんかおかしい──。
口の端に、温かい感触が這う。
「良い歳して、こんなとこにクリームつけんなよ。ま、俺は良いけど」
早瀬が買ってきてくれたクリスマスケーキを食べながら、私は何度も彼の顔を見た。ケーキ屋のショーケースの前で注文する姿を想像すると、おかしくてつい頬を緩めてしまう。
クリスマスであって、私の三十二歳の誕生日。
ちなみに彼は私より二歳年上だ。
「ちょっと、自分で取るよ、見えてたなら言ってよ」
私は慌てて自分で口の端を触ってみたけれど。
「……嘘。何もついてねえよ。俺が舐めたかっただけ」
「ちょっと──! もう!」
「ははは、口は、本当に甘かったけどな」
楽しそうに笑う早瀬に、私は背中を向けた。
ものすごく久しぶりに仲良くしたと思ったのに、からかわれるのはあの頃と同じだった。
「もう、冗談はやめてよ……。もう、嫌だよ」
膝を抱えて小さくなって、俯いてしまう。
自分の部屋にいるはずなのに居心地が悪い。
早瀬をどうしようか、今日の出来事を忘れて帰ってもらおうか、と悩んでいると、後ろから彼の声が聞こえた。
「ごめん、俺が悪かった。謝るから、こっち向いてくれよ。俺だって、本当は──」
好きで言ったんじゃないんだ、長年の癖でつい言ってしまったんだ、という言葉は私の耳には届かなかったけれど。
早瀬との関係をこじらせたくなくて、私は彼に向き合った。
「椎平──今まで、長いこと傷つけてばっかりで、悪かった」
「……うん。傷ついた。でも、もう良いよ」
「本当か? 許してくれるのか?」
「昔のことはね。会社での嫌味は、まだ嫌だけど」
「それは──」
私だって、分かってる。
昔は私にだけ向いていた嫌味は、いつの間にか誰にでも向くようになった。
彼が普通に話す姿なんて、今さらきっと誰も想像できない。
だから、会社で普通に話したら、何かの噂をされる可能性はある。
「すぐには無理だろうけど。ちょっとずつやめていってくれればいいよ」
「ごめん……。それで、その、なんか、順番逆になっちまったけど」
「順番?」
「さっき、キスしたろ──俺まだ、おまえに何も」
付きあうとか付き合わないとか、言う言わないは特にこだわらないけれど。
どちらかといえば言ってもらった方が、気持ちが切り替わっていいとは思う。
さっきは空気に流されてそのまま彼を受け入れたけれど、早瀬はちゃんとけじめをつけたいらしい。
「おまえのこと──三十年間、ずっと好きだった。さっきも言ったけど、これは本当だ」
「三十年って……まさか」
笑いながらそう言うと、彼の顔は真剣になった。
真剣に私を見つめて、私も目を逸らすことができなかった。
「だって、三十年前って……私、まだ、幼稚園にも入ってないよ?」
「俺は幼稚園児だった。ずっと忘れなかった。さっきも言ったよな……三十年分の想いを軽くみるなって……俺、もう、いい加減、待てない……!」
「わっ、ちょっと、早瀬っ!」
既に私は早瀬の腕の中。
抱きしめられた耳元で、「幹奈が好きだ」と早瀬が言った。