True Love─最初の恋、最後の愛─
2.一緒にいさせて
「真剣に、好きだ。俺の彼女になってくれ」
言いながら私を抱く早瀬の腕の力はだんだん強くなっていった。
私は過去に何人か彼氏がいた──けれど、その誰よりも抱かれ心地が良くて、強すぎる力でも苦しいとは思わなかった。
むしろ、もっと抱いてほしかった。
「うん……! 私も、大好き」
それから何が起こったのか、よく覚えていない。
早瀬に強く抱きしめられて、何度もキスをした。
気がつけば二人で寝転がって、乱れた呼吸をしていた。
腕と足が絡まって、どれが誰のかわからなかった。
髪も服も乱れていたし、早瀬はスーツのジャケットを脱いでネクタイも外していた。
ソファに置いていたはずのクッションも床に落ちていた。
けれど、すべてが乱れていただけで、服を脱いだ形跡はない。
「おまえ……前の彼氏に浮気されたんだろ?」
「……たぶんね」
「たぶんって、知らねえのか?」
「……去年のクリスマス、デートの予定だったけど、出かける直前に電話があって、『用事ができたからキャンセル、それから別れよう』だって。ショックすぎてさ。しばらく放心状態だったよ」
急に別れを告げられて、何も言葉が出なかった。
用事って何?
なんで別れるの?
嫌なことしたなら謝るよ?
何も言葉に出来ないまま、そのまま電話は切れて、彼とは連絡がつかなくなった。
「でも、良かったと思ってる。早瀬と、また仲良くなれたから」
言いながら身体を起こして、ソファを背もたれにして早瀬と並んだ。
隣になった右手は、早瀬の左手に重ねた。
「教えてやろうか、三十年前のこと。俺とおまえが出会った日のこと」
「……うん」
「その前に、俺のことは名前で呼ぶこと。昔もそうだったろ」
「昔、何て呼んでたっけ? ……良祐兄ちゃん? 良兄ちゃん?」
「ばかっ、もうさすがにそれはねえだろ」
「ははは! だよね。普通に、良祐、で良い?」
「ああ──」
良祐は微笑むと、昔がたりを始めた。
「幹奈が生まれるより前だよ。いつも母親とおまえんちに行ってて、母親同士喋ってる間は一人で遊んでた。だけど、あの日──オモチャ以外のものに興味がいったんだ。生まれて初めて見るものだった」
「何を見たの? 今もそれ、ある?」
「いや、ないな。──正確には、形が変わった。まぁ、どっちみち、あの家にはもうないけどな」
良祐が何を言っているのか、私はまだわからなかった。
私の家にあったもの。興味がわくけど、オモチャじゃないもの。今は別の形。
実家を思い出してみるけれど、検討もつかない。
「すごい衝撃的でさ。ちっさくってさ。やわらかくてさ。……俺の指を思いっきり握って、全然離さなかったんだよ、おまえは」
「……え? 私?」
「生まれてすぐの幹奈がそこにいた」
☆
幹奈が生まれて最初のお正月。
新年のあいさつに椎平家を訪問した早瀬夫妻と息子・良祐。今年もよろしくお願いします、良祐は今年から幼稚園です、という挨拶をしてから、椎平夫妻は娘・幹奈を紹介した。
「あらーかわいい。どっちに似たのかな?」
「何か困ったことがあったら、いつでも言ってね」
そんな話をしばらくしてから、大人たちは世間話を始めていた。
一方、良祐は大人には混じらず、ずっと幹奈のそばにいた。
(すっげー……かわいい……)
幹奈は手足をバタつかせながら、ずっと天井を見つめていた。くるくる回るオモチャがぶら下げられていて、それを目で追っていた。
興味がわいて触ろうとすると、指を握られた。
(力、強いな)
幹奈は良祐の指を握ったまま、離そうとしなかった。
良祐も嫌ではなかったし、そのままでも別に構わなかった。
むしろ、妹ができたみたいで、嬉しかった。
(大きくなったら、一緒に遊ぼうな)
じっと幹奈を見つめていると、急に幹奈が「へへへ!」と笑った。
その笑顔を見ていると、つられて良祐も頬が緩んだ。
☆
「それが、最初の出会いだった」
「そうなんだ……」
「おまえんちに行ったときは、いつも遊んでやってたんだぞ。それがいつの間にか、こんな大きくなって」
「大きくなって、って、子供じゃないんだから」
笑いながら、繋いだ手で良祐の足を叩くと、彼はこう言った。
「さっきもそんなこと言ってたよな」
それはキスをする少し前のこと──。
私は小さいとき、良祐に「大きくなったらお嫁さんになりたい」と言って、良祐は「俺がもらってやる」と答えたらしい。
私も、「うん」と喜んだらしい。
三十年前のことは覚えてないけれど、良祐はそのことをずっと本気にしてたみたいで。
もちろん私は、さっきまで知らなかったけれど。
『良い子にしてたら嫁にしてやる』
『もう、私、子供じゃないよ?』
良祐の中では、私は子供なのかな。
「良祐──今日、泊まってく?」
「え? ……いや、それは、さすがに……着替えもないし」
私の提案に良祐は視線を泳がせた。
「あるよ。新品で……防犯対策に洗濯物と一緒に干してるの。それとも、何か用事ある?」
「いや、何もないけど──急に押しかけたのに、本当に良いのか?」
「このままひとりになるのは辛いよ。特に、今日は」
クリスマスイブで、私の誕生日で、良祐と恋人になれた日。
世界中でいちばん幸せ、そんな土曜日のHoly Night。
言いながら私を抱く早瀬の腕の力はだんだん強くなっていった。
私は過去に何人か彼氏がいた──けれど、その誰よりも抱かれ心地が良くて、強すぎる力でも苦しいとは思わなかった。
むしろ、もっと抱いてほしかった。
「うん……! 私も、大好き」
それから何が起こったのか、よく覚えていない。
早瀬に強く抱きしめられて、何度もキスをした。
気がつけば二人で寝転がって、乱れた呼吸をしていた。
腕と足が絡まって、どれが誰のかわからなかった。
髪も服も乱れていたし、早瀬はスーツのジャケットを脱いでネクタイも外していた。
ソファに置いていたはずのクッションも床に落ちていた。
けれど、すべてが乱れていただけで、服を脱いだ形跡はない。
「おまえ……前の彼氏に浮気されたんだろ?」
「……たぶんね」
「たぶんって、知らねえのか?」
「……去年のクリスマス、デートの予定だったけど、出かける直前に電話があって、『用事ができたからキャンセル、それから別れよう』だって。ショックすぎてさ。しばらく放心状態だったよ」
急に別れを告げられて、何も言葉が出なかった。
用事って何?
なんで別れるの?
嫌なことしたなら謝るよ?
何も言葉に出来ないまま、そのまま電話は切れて、彼とは連絡がつかなくなった。
「でも、良かったと思ってる。早瀬と、また仲良くなれたから」
言いながら身体を起こして、ソファを背もたれにして早瀬と並んだ。
隣になった右手は、早瀬の左手に重ねた。
「教えてやろうか、三十年前のこと。俺とおまえが出会った日のこと」
「……うん」
「その前に、俺のことは名前で呼ぶこと。昔もそうだったろ」
「昔、何て呼んでたっけ? ……良祐兄ちゃん? 良兄ちゃん?」
「ばかっ、もうさすがにそれはねえだろ」
「ははは! だよね。普通に、良祐、で良い?」
「ああ──」
良祐は微笑むと、昔がたりを始めた。
「幹奈が生まれるより前だよ。いつも母親とおまえんちに行ってて、母親同士喋ってる間は一人で遊んでた。だけど、あの日──オモチャ以外のものに興味がいったんだ。生まれて初めて見るものだった」
「何を見たの? 今もそれ、ある?」
「いや、ないな。──正確には、形が変わった。まぁ、どっちみち、あの家にはもうないけどな」
良祐が何を言っているのか、私はまだわからなかった。
私の家にあったもの。興味がわくけど、オモチャじゃないもの。今は別の形。
実家を思い出してみるけれど、検討もつかない。
「すごい衝撃的でさ。ちっさくってさ。やわらかくてさ。……俺の指を思いっきり握って、全然離さなかったんだよ、おまえは」
「……え? 私?」
「生まれてすぐの幹奈がそこにいた」
☆
幹奈が生まれて最初のお正月。
新年のあいさつに椎平家を訪問した早瀬夫妻と息子・良祐。今年もよろしくお願いします、良祐は今年から幼稚園です、という挨拶をしてから、椎平夫妻は娘・幹奈を紹介した。
「あらーかわいい。どっちに似たのかな?」
「何か困ったことがあったら、いつでも言ってね」
そんな話をしばらくしてから、大人たちは世間話を始めていた。
一方、良祐は大人には混じらず、ずっと幹奈のそばにいた。
(すっげー……かわいい……)
幹奈は手足をバタつかせながら、ずっと天井を見つめていた。くるくる回るオモチャがぶら下げられていて、それを目で追っていた。
興味がわいて触ろうとすると、指を握られた。
(力、強いな)
幹奈は良祐の指を握ったまま、離そうとしなかった。
良祐も嫌ではなかったし、そのままでも別に構わなかった。
むしろ、妹ができたみたいで、嬉しかった。
(大きくなったら、一緒に遊ぼうな)
じっと幹奈を見つめていると、急に幹奈が「へへへ!」と笑った。
その笑顔を見ていると、つられて良祐も頬が緩んだ。
☆
「それが、最初の出会いだった」
「そうなんだ……」
「おまえんちに行ったときは、いつも遊んでやってたんだぞ。それがいつの間にか、こんな大きくなって」
「大きくなって、って、子供じゃないんだから」
笑いながら、繋いだ手で良祐の足を叩くと、彼はこう言った。
「さっきもそんなこと言ってたよな」
それはキスをする少し前のこと──。
私は小さいとき、良祐に「大きくなったらお嫁さんになりたい」と言って、良祐は「俺がもらってやる」と答えたらしい。
私も、「うん」と喜んだらしい。
三十年前のことは覚えてないけれど、良祐はそのことをずっと本気にしてたみたいで。
もちろん私は、さっきまで知らなかったけれど。
『良い子にしてたら嫁にしてやる』
『もう、私、子供じゃないよ?』
良祐の中では、私は子供なのかな。
「良祐──今日、泊まってく?」
「え? ……いや、それは、さすがに……着替えもないし」
私の提案に良祐は視線を泳がせた。
「あるよ。新品で……防犯対策に洗濯物と一緒に干してるの。それとも、何か用事ある?」
「いや、何もないけど──急に押しかけたのに、本当に良いのか?」
「このままひとりになるのは辛いよ。特に、今日は」
クリスマスイブで、私の誕生日で、良祐と恋人になれた日。
世界中でいちばん幸せ、そんな土曜日のHoly Night。