True Love─最初の恋、最後の愛─
3.突然の出来事
「今年ももうすぐ仕事納めだね。片付かないな……」
年内最後の月曜日、デスクの両端に山積みされた書類を見て溜息をついた。
特に年内に片付けないといけない仕事ではないけど、できれば片付けて新年を迎えたい。
いつも遅くまで残業してるのに、仕事は増える一方だ。
「先輩、溜息つくと幸せが逃げていきますよ。……あ、すみません!」
隣の席のタマちゃん(多摩希美子・二十五歳)は同じ部署の後輩だ。
配属されたときから親しくしていて、プライベートでも仲が良い。もちろん、恋愛状況なんかもお互い知っている。
けれど、まだ良祐とのことは誰にも話していない。
隠しているわけではなくて、そんな話にならないだけだ。良祐と幼馴染だとは、みんなが知っている。
「タマちゃんは、クリスマスは彼氏と過ごしたんでしょ?」
「はい! 日本一高いクリスマスツリーを見に行きました! すごい綺麗でしたよー!」
それで彼氏ったら……、なんて笑いながら、タマちゃんはクリスマスの出来事を詳しく教えてくれた。豪華なディナーをご馳走してくれて、そのままホテルに一晩泊まって、日曜日の夜に家に帰ってきたらしい。
美味しいものを食べて、一緒に眠って、翌日に帰宅。
それなら私と良祐と同じだ、と昨夜のことを思い出しながら、私はタマちゃんを昼ごはんに誘った。
社員食堂に向かう途中もタマちゃんは彼氏の話を続けていた。
「──ってくださいね。……先輩? どうかしたんですか?」
「えっ? なに?」
「私の話、聞いてくれてましたか?」
「ああ、ごめん……早く彼氏作れ、って言ってたよね」
「はい。……先輩、なに見てたんですか?」
「な、何でもないよ」
「そんなことないですよー! あっちのほうずっと見てましたよ?」
そしてタマちゃんが見つけたものは。
「……早瀬課長ですか? 嫌味番長」
番長、という言葉に思わず吹き出してしまったけれど、本当にそうだと思う。
そしてタマちゃんの言う通り、私が見ていたのは良祐。
食堂に向かう途中で見つけて、ずっと背中を追っていた。今は仲間たちと笑いながらランチを食べている。
「課長って、黙ってたらかっこいいのになぁ。私、課長のこと好きだったんです」
「……え?」
思わず胸の奥がざわついた。
まさかの言葉に、目を見開いてしまった。
「彼氏ができる前ですけど。初めて見たときにかっこいいなぁと思って、用事があって話しかけたときも優しくて……でも、嫌味ばっかり言ってるの聞いて、ダメだと思いました」
「ああ……なるほどね」
タマちゃんの言葉に同意しながら、心の中では安心していた。
もしタマちゃんが良祐に色目を使っていたら、私は今も彼氏がいなかったかもしれない。
良祐はずっと私が好きだったらしいけれど、若くて可愛いタマちゃんに頼られたら、男はきっと誰でも落ちてしまう。
「今日の番長、なんか嬉しそうですよね」
「そう? ……いつもと変わらないと思うけど」
と言ってはみたけれど、私だってそう思っていた。
朝はいつもより早めに出勤してきて、仕事中も元気な声が聞こえたし、今だってものすごく笑顔で仲間と話している。
何より、いつもは朝から嫌味を連発してたけれど、今日はほとんど聞いていない。
「先輩と番長って、幼馴染なんですよね?」
「そうだよ。実家が隣だった。今は私もあいつも、ひとり暮らししてるけどね」
「どんな子供だったんですか? 小さい頃から、嫌味ったらしかったんですか?」
「うん……最初は仲良かったんだけどね。だんだん嫌味ばっかり言うようになったから、思いっきり無視してやったの。高校からは違う学校になったから平和だったのに、就職したらいるし……」
最悪、という顔をタマちゃんに向けつつ、出会えてよかったよ、と良祐をちらりと見た。
「それで先輩……なんで早瀬課長を見てたんですか?」
受け取ったパスタをトレイに乗せて、タマちゃんが聞いてきた。
「え? なんでって、別に何もないけど……?」
視界の隅で動いていたからつい気になった、という言い逃れは出来ないと思ったそのとき。
「おまえマジか! 良かったな!」
大声を上げたのは、良祐の部署の部長。
部長に勢い良く肩を叩かれているのは、良祐だった。
何があったんですか、という社員たちの目が一斉に良祐と部長に注目する。
「こいつ、クリスマスイブに好きな子の家に押しかけて、一晩過ごしたらしい」
「──えええええええ?」
いろんな声の大合唱の中、私は思わず水の入ったコップを落としそうになった。
「ビックリですね、先輩」
「うん……ビックリした……(突然の出来事に)」
「だから朝から嬉しそうだったのかぁ」
タマちゃんはパスタをフォークでくるくる巻きながら、ちらちらと良祐たちのほうを見ていた。
私も気になったけれどなかなか見る気になれなくて、けれど全然見ないのも怪しまれそうで、食べ物を口に入れてから恐る恐る顔を上げてみた。
良祐はみんなに冷やかされながら、そのまま食堂から出ていってしまった。
「番長……彼女さんにも嫌味言うのかなぁ」
「それはないんじゃない? さすがに」
「でも、想像つかないです!」
タマちゃんは口を押さえながら、少しだけ笑っていた。
「だろうね。でも謝ってたから、そのうち会社でも言わなくなると思うよ」
「謝ってた? 先輩にですか? あんなに偉そうに毎日──」
失言に気付いたのは、タマちゃんの言葉が途切れてからだった。
「もしかして、先輩……土曜日の夜──」
一緒に眠りましたとも。私のベッドの中で。
年内最後の月曜日、デスクの両端に山積みされた書類を見て溜息をついた。
特に年内に片付けないといけない仕事ではないけど、できれば片付けて新年を迎えたい。
いつも遅くまで残業してるのに、仕事は増える一方だ。
「先輩、溜息つくと幸せが逃げていきますよ。……あ、すみません!」
隣の席のタマちゃん(多摩希美子・二十五歳)は同じ部署の後輩だ。
配属されたときから親しくしていて、プライベートでも仲が良い。もちろん、恋愛状況なんかもお互い知っている。
けれど、まだ良祐とのことは誰にも話していない。
隠しているわけではなくて、そんな話にならないだけだ。良祐と幼馴染だとは、みんなが知っている。
「タマちゃんは、クリスマスは彼氏と過ごしたんでしょ?」
「はい! 日本一高いクリスマスツリーを見に行きました! すごい綺麗でしたよー!」
それで彼氏ったら……、なんて笑いながら、タマちゃんはクリスマスの出来事を詳しく教えてくれた。豪華なディナーをご馳走してくれて、そのままホテルに一晩泊まって、日曜日の夜に家に帰ってきたらしい。
美味しいものを食べて、一緒に眠って、翌日に帰宅。
それなら私と良祐と同じだ、と昨夜のことを思い出しながら、私はタマちゃんを昼ごはんに誘った。
社員食堂に向かう途中もタマちゃんは彼氏の話を続けていた。
「──ってくださいね。……先輩? どうかしたんですか?」
「えっ? なに?」
「私の話、聞いてくれてましたか?」
「ああ、ごめん……早く彼氏作れ、って言ってたよね」
「はい。……先輩、なに見てたんですか?」
「な、何でもないよ」
「そんなことないですよー! あっちのほうずっと見てましたよ?」
そしてタマちゃんが見つけたものは。
「……早瀬課長ですか? 嫌味番長」
番長、という言葉に思わず吹き出してしまったけれど、本当にそうだと思う。
そしてタマちゃんの言う通り、私が見ていたのは良祐。
食堂に向かう途中で見つけて、ずっと背中を追っていた。今は仲間たちと笑いながらランチを食べている。
「課長って、黙ってたらかっこいいのになぁ。私、課長のこと好きだったんです」
「……え?」
思わず胸の奥がざわついた。
まさかの言葉に、目を見開いてしまった。
「彼氏ができる前ですけど。初めて見たときにかっこいいなぁと思って、用事があって話しかけたときも優しくて……でも、嫌味ばっかり言ってるの聞いて、ダメだと思いました」
「ああ……なるほどね」
タマちゃんの言葉に同意しながら、心の中では安心していた。
もしタマちゃんが良祐に色目を使っていたら、私は今も彼氏がいなかったかもしれない。
良祐はずっと私が好きだったらしいけれど、若くて可愛いタマちゃんに頼られたら、男はきっと誰でも落ちてしまう。
「今日の番長、なんか嬉しそうですよね」
「そう? ……いつもと変わらないと思うけど」
と言ってはみたけれど、私だってそう思っていた。
朝はいつもより早めに出勤してきて、仕事中も元気な声が聞こえたし、今だってものすごく笑顔で仲間と話している。
何より、いつもは朝から嫌味を連発してたけれど、今日はほとんど聞いていない。
「先輩と番長って、幼馴染なんですよね?」
「そうだよ。実家が隣だった。今は私もあいつも、ひとり暮らししてるけどね」
「どんな子供だったんですか? 小さい頃から、嫌味ったらしかったんですか?」
「うん……最初は仲良かったんだけどね。だんだん嫌味ばっかり言うようになったから、思いっきり無視してやったの。高校からは違う学校になったから平和だったのに、就職したらいるし……」
最悪、という顔をタマちゃんに向けつつ、出会えてよかったよ、と良祐をちらりと見た。
「それで先輩……なんで早瀬課長を見てたんですか?」
受け取ったパスタをトレイに乗せて、タマちゃんが聞いてきた。
「え? なんでって、別に何もないけど……?」
視界の隅で動いていたからつい気になった、という言い逃れは出来ないと思ったそのとき。
「おまえマジか! 良かったな!」
大声を上げたのは、良祐の部署の部長。
部長に勢い良く肩を叩かれているのは、良祐だった。
何があったんですか、という社員たちの目が一斉に良祐と部長に注目する。
「こいつ、クリスマスイブに好きな子の家に押しかけて、一晩過ごしたらしい」
「──えええええええ?」
いろんな声の大合唱の中、私は思わず水の入ったコップを落としそうになった。
「ビックリですね、先輩」
「うん……ビックリした……(突然の出来事に)」
「だから朝から嬉しそうだったのかぁ」
タマちゃんはパスタをフォークでくるくる巻きながら、ちらちらと良祐たちのほうを見ていた。
私も気になったけれどなかなか見る気になれなくて、けれど全然見ないのも怪しまれそうで、食べ物を口に入れてから恐る恐る顔を上げてみた。
良祐はみんなに冷やかされながら、そのまま食堂から出ていってしまった。
「番長……彼女さんにも嫌味言うのかなぁ」
「それはないんじゃない? さすがに」
「でも、想像つかないです!」
タマちゃんは口を押さえながら、少しだけ笑っていた。
「だろうね。でも謝ってたから、そのうち会社でも言わなくなると思うよ」
「謝ってた? 先輩にですか? あんなに偉そうに毎日──」
失言に気付いたのは、タマちゃんの言葉が途切れてからだった。
「もしかして、先輩……土曜日の夜──」
一緒に眠りましたとも。私のベッドの中で。