True Love─最初の恋、最後の愛─

4.本当の気持ち

「なんで言ってくれないんですか! 先輩!」

 昼ごはんを食べていつもはそのままゆっくりするけれど、今日はタマちゃんに外の喫茶店に引っ張ってこられてしまった。
 もちろん、良祐との関係がバレたから。

「なんでって、別にそんな話にならなかったし……」
「あー、だから、さっきも課長のほう見てたんですね」

 詳しく教えてください、とせがむタマちゃんに話してあげたい気持ちはあったけれど、休憩時間は終わりに近づいていた。
 だから話の続きは晩ご飯を食べながら、ということにして、会社に戻りながら『土曜日は一緒の布団に入っただけだからね』という部分を強調した。


 会社に戻ると、外出しようとしている良祐と階段ですれ違った。
 今までずっと無視していたから今日もいつも通りにしよう、と思った。タマちゃんは何か言いたそうに私と良祐を交互に見ているけれど、私は敢えて見ない。

 けれど、良祐に呼びとめられてしまった。

「おい、シーラカンス。今日は何時まで残業する予定なんだ?」
「……私はシーラカンスじゃありませんから」

 良祐とは恋人同士なのに、変な会話になる。
 言ってる自分がおかしくて、けれど近くには事情を知らない人たちもいるから顔には出さないように良祐のほうを見た。
 ようやく見つめられて嬉しいはずなのに、表に出せなくて胸が苦しくなる。

「今日も俺が鍵当番なんだ。仕事の都合もあるから、時間を決めろ」

 良祐もたぶん、同じ気持ちのはずだ。
 でも彼は、タマちゃんが事情を知っているとは思っていない。

「今日は定時です。……他の人に聞いてください」

 そして私は良祐の反応を見ずにそのまま階段を昇りはじめ、反対に一階へと向かい外に出ていく足音を遠くのほうで聞いた。

「先輩……本当に、課長と付き合ってるんですか?」

 誰もいない場所でタマちゃんが聞いた。

「うん。あれでも心配してくれてるんだよ。あまり残業するな、っていう会話だったんだけど」
「そうなんだ……」
「こないだも──土曜日も、私の残業がきっかけだったし。はは、詳しい話は後だね!」


 今だからわかる。
 良祐がずっと私に嫌味を言い続けてたのは、それは全部、私を心配してのこと。

『今日、残業なんかしてて良いのか?』
『俺、今日、戸締り担当だけど帰りてえから、おまえもそろそろ帰ってくれね?』

 あのときは、寂しい女だなって言いたいに違いない、と思ってたけれど。

 クリスマスイブなのに、誕生日なのに、ひとりで残業するなんて俺が許さない──。
 言葉の裏にあった良祐の気持ちが、今ならわかる。


 仕事は定時で終わらせて、タマちゃんと近くのオシャレな居酒屋へ。
 個室に通されたのもあって、約束通り、私は良祐との出来事をタマちゃんに正直に話した。

「だから、イルミネーションは見れてないけど、やってたことはタマちゃんたちと一緒だよ。ああ、違うか、タマちゃんはエッチしたんでしょ。私はしてないからね」
「せっ……、先輩! それは……、その……」

 タマちゃんは顔の前で手を横に振りながら、だんだん紅くなっていった。
 お酒で酔ったせいなのか、照れたからなのかは、わからない。

「ははは、照れなくても良いのに。本当に彼氏なんでしょ? 不倫じゃなくて」
「ち、違います、彼氏です! で、でも、……そんなこと……」

 そんな話、恥ずかしいからやめてください、と言う声はだんだん小さくなっていく。
 威勢がなくなってしぼむタマちゃんはものすごく可愛く見えた。

「先輩は本当に、課長とやってないんですか?」

 聞いてきたタマちゃんの顔はまだ紅い。

「うん。いきなり部屋を汚されても嫌だし。洗濯物は乾きにくいしねー、この季節」

 私は本当に、良祐とは肌を重ねていない。
 キスはした。
 胸元は肌蹴て、その辺りには触れられた。
 服の上からなら、胸だって揉まれた。
 良祐の硬くなったものを感じていた。

 けれど良祐もいきなり抱きはしないと言ってたし、私もそれは同感だった。
 いくら恋人同士でも、そこまで簡単に許すつもりはなかった。
 理性を失う直前で、お互いに動きを止めた。

 でも、良祐のことはずっと好きだったし、彼にも長く待たせたし、もし彼の気が変わって脱がされたらその時は受け入れようと思っていた。
 だから特に深く考えないで、小さいベッドなのもあって手足は絡めていた。
 だけど良祐は、それ以上は襲ってこなかった。


「先輩、わらし、課長のこと、応援しれます! 誰んも言わらいから、安心しれくらあいね!」
「はいはい、ありがとう。また明日ね。──すみません、お願いします」

 完全に酔い潰れてしまったタマちゃんをタクシーで自宅に送り届けてから、私は再び運転手に行き先を告げた。


 マンションの前に辿り着くと、人影があった。

「あれ……良祐? 何してんの?」
「おまえ、遅ぇーよ。今までどこ行ってたんだよ」
「どこって、タマちゃんとご飯──もしかして、待ってたの?」
「──良いから早く開けろ。ずっと立ってて足痛ぇ」

 ごめん、と謝りながら急いでドアを開けると、良祐はそのまま玄関に座った。

「今日は残業ナシで帰るっつーから、一緒に過ごそうと思って来たのにいねーし……水くれよ、喉乾いた」

 冷蔵庫からミネラルウォーターを出してコップに注ぎ、玄関で待つ良祐に渡した。

「今日はどうしたの? 何かあったの? 来るなら電話」
「したよ。でも、何回かけても繋がらなかったし、LINEも既読にならねえし」
「えっ、うそ!」

 慌てて鞄から出したスマホには、良祐からの着信がたくさん入っていた──。

「ごめん……もしかして、ご飯、まだだったりする?」
「いや、会社のヤツと近くで食って来た。それより今は、幹奈を食べたい」

 次の瞬間、私は良祐に押し倒されていた。
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