True Love─最初の恋、最後の愛─

5.真剣な想い

 タマちゃんとご飯を食べて帰宅したら部屋の前に良祐がいて、『私を食べたい』と言った。

「それは、もしかして──そういうこと?」
「もしかしなくても、それしかねーだろ」

 水を飲んだ後のコップは床に置いて、良祐は私を強引に抱き寄せて唇を奪った。
 柔らかくて温かい──けれど、本当に私を食べるように隙間を開けて舌を入れてくる。タマちゃんほどではないけれど私も酔っていて、いつも以上に頭がクラクラする。

「おまえ、酒臭い」
「……さっきまで飲んでたんだもん」
「酒はほどほどにしとけ、ってこないだ言ったばっかだろ」
「……ヤケじゃないもん。タマちゃんと楽しく飲んでたんだよ」
「それでもなぁ。酒臭い女とはキスしたくないな」

 臭いを消せば良いんでしょ? と言って、私は良祐から離れて洗面所へ向かった。
 歯ブラシに歯磨き粉をたっぷりつけて、いつもより時間をかけて磨いてから仕上げにミント味のタブレットを三つくらい口に入れた。

 歯を磨いている間に良祐も立ちあがり、そのまま部屋に入ってきた。
 上着を脱いで椅子に掛け、ついでにネクタイと第一ボタンを外して、すっかり寛いだ格好になっていた。

「今日も泊まってくの?」
「ダメか?」
「……良いけど別に。ご自由に」

 もちろん、クリスマスに続いての突然の訪問すぎて、準備は何も出来ていない。
 こないだ貸した着替えは乾いてるけれど、良祐には少し小さかったらしい。
 こんなに頻繁に泊まりに来るなら、良祐用のをいくつか常備しておこうか、と思う。

 荷物を片づけて戻って来ると、良祐はなぜか床に正座していた。

「幹奈──俺、おまえのことは本気だから」
「え……うん」
「会社ではあんな態度だったけど、まだ、相手が幹奈とはバレてないから」
「そうなんだ……。あ、ごめん、タマちゃんにバレちゃったけど」

 その一言に良祐は一瞬驚いたようだったけれど、

「多摩だったらそんなに騒がないし、別に良いよ」

 問題は部長だ、と良祐はため息をついた。

「それで、幹奈──俺にいろいろ教えて欲しい」
「教えるって、何を?」
「その、女の、扱い方とか……幹奈がされて嫌なこととか、嬉しいこととか。あと、俺の、ダメなとこも」
「扱い方? 良祐って……今まで彼女、いたよね? ……セフレだって」

 何回か聞いたことがある。
 私とは全然違うスタイルの良いお姉さんだったり、どこで出会ったのか知らないけど大企業の社長令嬢だったり、ものすごく華やかなイメージの人と付き合ってた噂は聞いたことがある。
 毎晩違う女性を抱いている、という噂も聞いたことがある。
 本当かどうかは知らないけれど、良祐を避けていたときだから特に気にしていなかった──つい最近までは。

「彼女はいた。……セフレもいた。でも……、幹奈のことは、そんなに軽く扱いたくない。今まで俺は、おまえが手に入らないでヤケでやってた。相手がどうなろうと、どうでも良かった。ただその時の感情だけで突っ走って、自分の欲望だけ満たしてた」

 そんな話は、どちらかというと聞きたくなかった。
 大好きな人が、過去に沢山の女性と身体の関係を持っていた──絶対に考えたくなかったけれど、知らなかったわけじゃない。
 それを知ってて、私は良祐と恋人になった。

「覚えてないんだ、付き合った人数も、その……抱いた、相手の数も。自分でも呆れるよ、記憶の無さも」
「いい。思い出さなくて良い。聞きたくもない」
「──ごめん。でも、こっからはよく聞いて」

 正座する良祐の隣に私は足を崩して座っていた。
 膝の上で無意識に力を込めていた手に、良祐の手が優しく添えられた。


「さっきも言ったけど、おまえのことは本気。他のやつと付き合ってても、どうしてもおまえのことが忘れられなかった。間違って、幹奈って呼んで怒られたこともある」
「……そう」

 嬉しいのか嬉しくないのか、どちらとも言えない気持ちだった。

「それだけ、好きだった。今も好きだ。……信じてくれるか?」

 信じないわけがない。
 クリスマスイブにわざわざ『Happy Birthday』のケーキを持ってきてくれて。
 住所も知らなかったのに、母親に聞いてまで会いに来てくれて。
 ただの軽い気持ちだったら、そこまでしないと思う。

「信じるよ。良祐の昔のことも、なるべく気にしないようにする」
「良かった……。それで、ここからはもっと真剣な話だから」


 なんとなくそんな気はしていた。
 何の前触れもなく二回も突然訪問してきて、また嫌がらせ? と思ったりしたけれど。
 良祐は余裕がないから急に来たんだと思う。

「これからもずっと──いつまでも、幹奈と一緒にいたい。幹奈となら、俺は素直になれる。たまに、嫌味っぽくなるかもしれないけど……俺を止められるのも、幹奈しかいないんだ」

 良祐は真剣な顔で私を見ていた。
 会社では真面目に働いているけれど、プライベートでそんな彼を見るのは初めてだ。

「クリスマスのとき、俺おまえに『俺がいないとダメだろ』って言いながら……本当は、俺がおまえ無しじゃダメだった。これから、一緒に暮らさないか?」
「それは……」
「転居届なんか出したら、俺とのことバレるよな。だから……嫌だったら、無理は言わない」

 転居届、という単語が最初に出てきたことに、けっこうガッカリした。
 でもそれは今は口にしたくなかった。

「幹奈のことで頭いっぱいでさ……考えるほど会いたくて、もう一緒に住むしかないな、って思って、気付いたらここに来てた。……なのに会って早々、態度でかくてごめんな……やっぱ、一緒に住むのは早すぎるよな」

 良祐は苦笑いしながら項垂れたけれど。

「そんなことないよ」

 私こそごめんね、と謝りながら、良祐の頬を両手で包んだ。
 それから交わしたキスの味は、少し苦い麦の味がした。
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