敵はママ!? 十歳ミミのサバイバル日記
第2章 第1話 パパとの生活が始まった
パパと暮らし始めて、一週間。
最初に思ったこと。
──静か。
家が、静かだった。
怒鳴り声がしない。
ため息もない。
「ミミ、早く!」
「ミミ、なんでできないの!」
そんな声も聞こえない。
朝。
ちゃんと眠れる。
夜。
こわくない。
それだけで、世界が少し変わった気がした。
パパの家は、小さなアパートだった。
単身赴任用だから、少し古い。
でも。
わたしには、お城みたいだった。
テレビがある。
ゲームもある。
しかも。
好きな時間に見ていい。
信じられない。
本当に?
怒られない?
最初はこわくて、音量を小さくしていた。
するとパパが笑った。
「もっと音出していいぞ」
え。
「近所迷惑にならない程度な」
わたしは、目をぱちぱちした。
……怒られない。
そのことが、まだ信じられない。
***
土曜日。
パパが言った。
「ミミ、何食べたい?」
「何食べたいって? パパ聞いてくれてるの?」
そんなこと、聞かれたことない。
いつもママが決めていた。
栄養。
無添加。
身体にいいもの。
それが正義だった。
だから。
少し迷ってから、小さな声で言った。
「……回るお寿司」
言った瞬間、後悔した。
わがままだったかな。
高いかな。
でも。
パパは笑った。
「よし。行くか」
え。
「好きなの食え」
胸が、ぎゅっとなった。
嬉しくて。
泣きそうだった。
「パパ、ありがとう。
嬉しいぃぃ!!
ミミ、回るお寿司に生まれて初めて行きます!!!」
***
初めての回転寿司。
レーンが光ってる。
お皿が回ってる。
みんな笑ってる。
なんか。
テレビの世界みたい。
「サーモン好き?」
「うん。多分」
「頼んでみろ」
タッチパネル。
ピッ。
すごい。
新幹線が運んでくる。
ミミは笑った。
久しぶりに。
心から笑った。
「パパ!」
「ん?」
「普通の家って……こんな感じなんだね」
パパの顔が、一瞬止まった。
でも。
すぐ笑った。
「……そうだな」
少しだけ。
悲しそうな顔だった。
***
漫画も買ってもらえた。
ライトノベルも。
「毎月三冊までな」
パパはそう言った。
ゲームも、一時間だけならOK。
「やることやったらな」
ママみたいに、
悪”扱いされない。
ピアノは辞めた。
もともと好きじゃなかった。
幸せだった。
本当に。
ここなら。
生きていける。
そう思った。
……でも。
少しだけ。
変なこともあった。
***
夜。
トイレに起きた時だった。
リビングから声がする。
パパだ。
スマホ。
小さい声。
でも。
怒ってる。
「だから今は無理だって言ってるだろ!」
どきっとした。
パパが怒鳴るなんて、初めて聞いた。
「分かったよ……払う」
しばらく沈黙。
「だから待ってくれ」
怖くなって。
ミミは、そっと部屋へ戻った。
次の日。
何も聞けなかった。
パパはいつも通りだった。
優しかった。
でも。
なんだか疲れている。
***
また別の日。
深夜。
目が覚めた。
時計を見る。
2時17分。
リビングが明るい。
のぞくと。
パパが、誰かと電話していた。
声が低い。
聞いたことない声。
「……もう終わった話だろ」
沈黙。
「今さら蒸し返すな」
空気が重い。
怖かった。
パパが。
知らない人みたいだった。
***
そして
ある日
スーパーで。
パパが財布を見て、固まった。
小銭だけ。
少し黙る。
それから。
お肉を棚に戻した。
「今日は、野菜カレーにしような」
笑ってる。
でも。
無理してる顔。
ミミは、気づいてしまった。
──パパ、お金ないのかな。
なのに。
漫画を買ってくれた。
回転寿司にも連れて行ってくれた。
……なんで?
優しい。
でも。
何かを隠している気がする。
そんなある夜。
玄関で
パパが誰かと電話していた。
声が低い。
怖いくらい。
「……もう、これ以上は払えない」
払う?
誰に?
ミミの背中が、ぞくっとした。
そして。
パパが、ぽつりと言った。
「頼むから……もう終わりにしてくれ」
胸がざわついた。
何が?
何を?
──パパ、何か隠してる。
その時。
パパが、ゆっくり振り向いた。
目が合った。
「……ミミ?」
心臓が、止まりそうになった。