敵はママ!? 十歳ミミのサバイバル日記

第3話  パパは味方なの?

それから。

少しずつ。

新しい生活に慣れていった。

パパは、ちゃんとご飯を作ってくれた。

焦げた卵焼き。

少ししょっぱい味噌汁。

でも。

あったかかった。

「ミミ、ごめんな。料理、ヘタで」

パパが笑う。

「ううん」

わたしも笑った。

ママといた頃みたいに。

息が苦しくならない。

怒鳴られない。

間違えても怒られない。

ただ。

少しだけ。

パパは疲れて見えた。



時々、夜に怒鳴る声を聞いた。

知らない誰かと電話しているみたい。

お金の話みたい。

そして、

時々。

すごく遠い顔をする。

でも、

それでも、

わたしは幸せだった。

やっと人並みになれた気がした。



***

それは、夕方だった。

宿題をしていると。

「ピンポーン」

チャイムが鳴った。

オンライン会議中のパパが、

「いったん離れます」

そういって立ち上がる。


「誰だろうな」

なんとなく、

わたしも顔を上げた。

玄関のドアが開く。

そして。

空気が変わった。

低い声。

知らない男の声。

わたしは、そっと玄関に行った。



そこにいたのは──。

葬儀の日の、運転手だった。

帽子。

少しくたびれたシャツ。

笑ってない顔。

心臓が、どくんと鳴る。

パパの顔が、一瞬で変わった。

強ばる。

怖い顔。

初めて見る顔。

「……ミミ」

低い声。

「部屋に行ってなさい」

え。

でも

気になる。

怖い。

なのに

足が動かない。

わたしは、そっとドアの隙間からのぞいた。

パパが、封筒を差し出していた。

少し厚い。

男は受け取る。

中を見る。

そして。

口元が、ゆっくり歪んだ。

「いやぁ」

笑う。

でも、

葬儀の時と違う。

全然違う。


「お世話になりました」

パパの声が硬い。

男が笑う。

気味悪く。

「いえいえ」

指で封筒を叩く。

「こちらこそ」



にやり。

「ええ商売させてもろて」

ミミの背筋が、ぞくっとした。

……商売?

パパの声が低くなる。

何か怒ってる。

でも

少し震えてる。

「……あなたとは、もう二度と会いません」

男が、肩を揺らして笑う。

「とんでもない」

ゆっくり顔を上げる。

目が、ぎらっと光った。

「何度でも請求に来ますわ」

沈黙。

怖い。

何の話?

パパが何も言えない。



男は、少し顔を近づけた。

そして

小さな声で言った。

「わし、人殺しになったんです」

え?

頭が真っ白になる。

次の瞬間。

男が、笑った。

ぞっとする笑い方。

「……あんたの希望通りにな」

世界が、止まった。

え?

何?

今。

なんて言った?

パパが固まる。

何も言わない。

否定しない。

呼吸が、止まりそうになる。

男は笑ったまま言う。

「そのつもりで」

封筒をポン、と叩く。

「これからは、もっとしっかり稼ぎなされや」

バタン。

ドアが閉まる。

静か。

怖いくらい、静か。

パパが立ち尽くしている。

背中が、知らない人みたいだった。

ママ地獄は終わった。

そう思っていた。

だけど。

もしかしたら。

本当に怖いのは、これからなのかもしれない。

【日記】9月27日 くもり

今日、すごく変なことがあった。

パパが、知らない人みたいだった。

……パパは

本当に、味方なんでしょうか。
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