敵はママ!? 十歳ミミのサバイバル日記
第7話 ママの暴走 サバイバル日記
そうはいっても、学校には行かなくちゃいけない。
わたしは、がんばった。
「おかえり、ミミ」
玄関のドアを開けた瞬間。
いつものように、ママが立っていた。
スマホをぎゅっと握って。
なんだか、目がこわい。
「学校どうだった?」
「……うん?」
ランドセルを下ろそうとすると、ママが一歩近づく。
「先生は? また何か言ってこなかった?」
心臓が、どきっと跳ねた。
「……忘れた」
「もう、ミミ!」
ぴしゃり。
大きな声。
「ちゃんと本当のこと言いなさい!」
──こわい。
あの日の嘘。
『先生がミミを疑った』
ママは、完全に信じていた。
そして。
どんどん、おかしくなっていった。
最近のママは、ずっとスマホばかり見ている。
ご飯中も。
洗濯中も。
寝る前まで。
ぶつぶつ、何か言ってる。
「SNSにね、教師批判アカウントっていうのがあるの」
ママが、少し笑う。
なんだかうれしそう。
「そこで、素晴らしいアドバイスをもらえるのよ」
目がきらきらしていた。
怖いくらいに。
「……いい時代になったわ」
私は、何も言えなかった。
それから。
ママは止まらなかった。
学校に電話。
校長先生に相談。
担任の葉月先生を責める長いメール。
なんか。
誓約書(せいやくしょ)っていうものまで出したらしい。
正直、意味はよくわからない。
でも。
家の空気が、ずっとピリピリしていた。
そして──。
その日。
三時間目の途中。
廊下が、なんだか騒がしかった。
ざわざわ。
大人の声。
教室の外を、誰かが何人も歩いている。
みきちゃんが小声で言った。
「またミミちゃんのお母さん?」
胸がぎゅっとなる。
その時。
ガラッ!!
勢いよく教室のドアが開いた。
教頭先生だった。
顔が引きつっている。
「葉月先生、ちょっと……!」
葉月先生が立ち上がる。
「え?」
「校長室に来てください。今すぐ」
教室がざわついた。
すると
廊下から、知らない男の声が響いた。
「はい皆さん、こちらが問題の学校です!」
え?
クラス全員が固まる。
スマホを持った男。
キャップ。
派手なシャツ。
その後ろに──ママ。
胸が、どくんと鳴る。
ママが、いる。
男がスマホをこちらへ向けた。
「子どもを疑う教師がいるって、本当ですか?」
「まあ、100歩譲ってそういう教師がいてもいいでしょう。
しかし、それを隠ぺいする学校の体質が問題なのです。
ぼくらはそれを許さない!」
教室が静まり返る。
男子がひそひそ言う。
「え、配信?」
「YouTuberじゃん」
「やば……」
ママが涙ぐんだ声で言った。
「うちの娘は傷ついたんです!」
「学校が隠蔽しようとしてる!」
KONTOさんがカメラに向かってうなずく。
「今の教育現場、闇深いですね」
葉月先生の顔が真っ白だった。
教頭先生が必死に言う。
「撮影はやめてください!」
「児童がいます!」
でも。
KONTOさんは止まらない。
「隠す必要あります?」
「やましいこと、あるんですか?」
教室中の視線が。
──ミミに集まった。
消えたい。
穴があったら入りたい。
その時。
リコちゃんが、小さな声で言った。
「……ミミちゃん、もうやだ」
胸が、ずきっとした。
そして、5時間目
わたしは会議室に呼ばれた。
中には、校長先生。
そして、葉月先生。
いつも優しい葉月先生が。
今日は、すごく疲れた顔をしていた。
校長先生が、困った顔で言う。
「ミミさん」
少し間があく。
「……お母さんが、とても怒っているんだけどね」
葉月先生と目を合わせた。
「先生たち、どうしたらいいのか、わからないんだ」
胸がぎゅっとした。
「何か、知ってる?」
わたしは、
何も言えなかった。
言えるわけない。
だって。
嘘ついたのはわたしだから。
しばらく沈黙が続いた。
そのあと。
葉月先生が、小さく笑った。
でも。
泣きそうな顔だった。
「……ねえ、ミミさん」
声が、少しかすれている。
「これから、警察の人が学校に来るの」
え。
頭が真っ白になる。
「事情を聞きたいって」
警察。
なんで?
そんな大ごと?
葉月先生は少し黙って、窓の外を見た。
「本当は、子どもに言うことじゃないんだけど」
小さく息を吐く。
「……先生、疲れちゃった」
胸が、ざわっとした。
「今月いっぱいで、辞めることになりそう」
先生は笑おうとした。
でも、笑えてなかった。
「お母さんに、そう伝えてくれる?」
校長先生が、ゆっくり目を閉じた。
重たい空気。
誰も笑わない。
私は。
ただ、イスの上で小さくなった。
──どうしよう。
こんなはずじゃなかった。
ただ。
英語をやりたくなかっただけなのに。
◇◆◇
【日記】7月10日 雨
消しゴムのことは、もう終わった。
私は、もう気にしていない。
先生も、忙しかっただけだと思う。
忘れることだってある。
だから。
……もう、許している。
わたしは、がんばった。
「おかえり、ミミ」
玄関のドアを開けた瞬間。
いつものように、ママが立っていた。
スマホをぎゅっと握って。
なんだか、目がこわい。
「学校どうだった?」
「……うん?」
ランドセルを下ろそうとすると、ママが一歩近づく。
「先生は? また何か言ってこなかった?」
心臓が、どきっと跳ねた。
「……忘れた」
「もう、ミミ!」
ぴしゃり。
大きな声。
「ちゃんと本当のこと言いなさい!」
──こわい。
あの日の嘘。
『先生がミミを疑った』
ママは、完全に信じていた。
そして。
どんどん、おかしくなっていった。
最近のママは、ずっとスマホばかり見ている。
ご飯中も。
洗濯中も。
寝る前まで。
ぶつぶつ、何か言ってる。
「SNSにね、教師批判アカウントっていうのがあるの」
ママが、少し笑う。
なんだかうれしそう。
「そこで、素晴らしいアドバイスをもらえるのよ」
目がきらきらしていた。
怖いくらいに。
「……いい時代になったわ」
私は、何も言えなかった。
それから。
ママは止まらなかった。
学校に電話。
校長先生に相談。
担任の葉月先生を責める長いメール。
なんか。
誓約書(せいやくしょ)っていうものまで出したらしい。
正直、意味はよくわからない。
でも。
家の空気が、ずっとピリピリしていた。
そして──。
その日。
三時間目の途中。
廊下が、なんだか騒がしかった。
ざわざわ。
大人の声。
教室の外を、誰かが何人も歩いている。
みきちゃんが小声で言った。
「またミミちゃんのお母さん?」
胸がぎゅっとなる。
その時。
ガラッ!!
勢いよく教室のドアが開いた。
教頭先生だった。
顔が引きつっている。
「葉月先生、ちょっと……!」
葉月先生が立ち上がる。
「え?」
「校長室に来てください。今すぐ」
教室がざわついた。
すると
廊下から、知らない男の声が響いた。
「はい皆さん、こちらが問題の学校です!」
え?
クラス全員が固まる。
スマホを持った男。
キャップ。
派手なシャツ。
その後ろに──ママ。
胸が、どくんと鳴る。
ママが、いる。
男がスマホをこちらへ向けた。
「子どもを疑う教師がいるって、本当ですか?」
「まあ、100歩譲ってそういう教師がいてもいいでしょう。
しかし、それを隠ぺいする学校の体質が問題なのです。
ぼくらはそれを許さない!」
教室が静まり返る。
男子がひそひそ言う。
「え、配信?」
「YouTuberじゃん」
「やば……」
ママが涙ぐんだ声で言った。
「うちの娘は傷ついたんです!」
「学校が隠蔽しようとしてる!」
KONTOさんがカメラに向かってうなずく。
「今の教育現場、闇深いですね」
葉月先生の顔が真っ白だった。
教頭先生が必死に言う。
「撮影はやめてください!」
「児童がいます!」
でも。
KONTOさんは止まらない。
「隠す必要あります?」
「やましいこと、あるんですか?」
教室中の視線が。
──ミミに集まった。
消えたい。
穴があったら入りたい。
その時。
リコちゃんが、小さな声で言った。
「……ミミちゃん、もうやだ」
胸が、ずきっとした。
そして、5時間目
わたしは会議室に呼ばれた。
中には、校長先生。
そして、葉月先生。
いつも優しい葉月先生が。
今日は、すごく疲れた顔をしていた。
校長先生が、困った顔で言う。
「ミミさん」
少し間があく。
「……お母さんが、とても怒っているんだけどね」
葉月先生と目を合わせた。
「先生たち、どうしたらいいのか、わからないんだ」
胸がぎゅっとした。
「何か、知ってる?」
わたしは、
何も言えなかった。
言えるわけない。
だって。
嘘ついたのはわたしだから。
しばらく沈黙が続いた。
そのあと。
葉月先生が、小さく笑った。
でも。
泣きそうな顔だった。
「……ねえ、ミミさん」
声が、少しかすれている。
「これから、警察の人が学校に来るの」
え。
頭が真っ白になる。
「事情を聞きたいって」
警察。
なんで?
そんな大ごと?
葉月先生は少し黙って、窓の外を見た。
「本当は、子どもに言うことじゃないんだけど」
小さく息を吐く。
「……先生、疲れちゃった」
胸が、ざわっとした。
「今月いっぱいで、辞めることになりそう」
先生は笑おうとした。
でも、笑えてなかった。
「お母さんに、そう伝えてくれる?」
校長先生が、ゆっくり目を閉じた。
重たい空気。
誰も笑わない。
私は。
ただ、イスの上で小さくなった。
──どうしよう。
こんなはずじゃなかった。
ただ。
英語をやりたくなかっただけなのに。
◇◆◇
【日記】7月10日 雨
消しゴムのことは、もう終わった。
私は、もう気にしていない。
先生も、忙しかっただけだと思う。
忘れることだってある。
だから。
……もう、許している。