ほたる先生は振り向かない
帰りのホームルームで担任の先生からさらりと渡された「進路希望調査書」のプリント。
合わせて、三者面談のアンケート。


「夏休みのこの面談でほぼ進路決めるからねー。ちゃんと考えておきなさいよー」

真っ黒に日焼けしているうちの担任は、女子テニス部の顧問。
本日もしっかり焦げパン。

「保護者の皆さんにはメール配信もしてるから逃げんなよ〜」

ざわざわしている教室に、よく通る担任の声。
ほたる先生とは大違い。


ふっと口元が緩む。
早く会いたいな。


ホームルームが終わって、呼び止めようとしてくる玲奈たちにサッと手を振って職員室へ向かう。

今月だけで、毎日とまではいかないまでもたぶんかなり通いつめている。

周りから見たら、“古典の授業をまったく理解できていない生徒”なんだろうな。


そんなことを思いながら、職員室の前に立つ。

バッグの中で古典の教科書をごそごそ探していると、ふっと隣に誰かが立つ気配。
はっとして顔を上げると。


「ほたる先生!」

思わず笑顔になると、先生は分かりやすく顔をしかめた。

「“聞きに来ても教えません”と言いましたよ」

「“来るな”って言わなかったじゃん」

「岸さん。僕は教師ですから、敬語を使ってください」

「はーい」


職員室のドアを、ほたる先生はめんどくさそうに開けてくれた。

ほら、こうやって私を中に入れてくれる。
ドアを開けてくれる。
ちゃんと優しいの、知ってる。


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