ほたる先生は振り向かない
職員室前の自販機には、オレンジジュースは売っていなかった。
代わりにあまり他では見ない、『濃縮!マンゴー100%ジュース』が置いてある。


「マンゴーって気分じゃないんだよなぁ…」

仕方なくぶどうジュースを選んで押す。

ゴトン、という音とともに、パックジュースが吐き出された。


スマホも自習室に置きっぱなしだし、腕時計もつけていない。
だから、今の時間は分からない。

でも、もうかれこれけっこう時間は経ったと思う。


────だって、日差しの種類が変わってきた。

白くて明るい痛い日差しじゃなくて、少し橙色を帯びたものに変化している。


背中に光を浴びながら、単語帳のリングに指をかけてくるんと回す。

パックジュースのストローを差して、ひとくち飲むと一気に甘みが口に広がって満たされた。


人の声はいつもどこか遠くで聞こえている。
夏の学校は、不思議な感じがする。

蝉の声と、人の声と、木々のざわめきが全部詰め込まれているみたいな空間。


暑そうな窓の外をぼんやり見ていたら、不意に低い声。

「……なにしてるんですか」


────この声!

私は勢いよく振り向く。とびきりの笑顔で。


講習終わりのほたる先生が、両腕に教科書や大量のプリントを抱えている。
教室の鍵を指先に挟んでいて、白いチョークの粉がそれについていた。

……もちろん、冷たい目をしてる。

そういうところがいい。


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