ほたる先生は振り向かない
講習が終わって、他の生徒たちがぱらぱらと教室を出ていく。

私は二人きりになったそのタイミングを見計らって、先生のいる教卓へ一直線に向かった。

いつもならさっさと教室を出ていくのに、今日は使った資料やプリントが多かったから、片付けに時間がかかっている。

ラッキー!


「ほたる先生!」

「…なんですか」

「漢文のどこがそんなに好きなの?」

教卓に肘をついて、先生の顔を真正面からじぃっと見つめる。
……今日もかっこいい。


地味な色のネイビーのネクタイが、きちんと締まっている。
同級生はみんなネクタイを緩めたり、シャツを出したり、気崩しているから。

先生のちゃんとしてる姿が、私には刺さる。


ほたる先生は半歩後ろへ下がって、トントンとプリントを揃える。

それらをクリアファイルに丁寧にしまいながら、私をちらりとも見ないまま答えた。

「今日説明しましたよ」

「足りない!もっと詳しく」

「嫌です」

いつもの、早すぎる即答。
ひどい。

「なんで!?」

「岸さん、“質問”ではなく雑談したいだけでしょう」

「先生と距離を縮めるには、こういう何気ない会話が大事かなーって思ってさ」

「距離を縮める必要性がないので、却下です」

さらっと返されてしまう。

でも、今日は引き下がる気はなかった。


「じゃあさ、先生って学生時代もこんな感じだった?」

「こんな感じ、とは?」

「静かで、感情薄くて、漢文好きで、友達少なそう」

先生がゆっくり顔を上げる。
半分面倒そうで、半分気に食わなそうな、そんな顔で。


「最後、悪口入ってませんか」

「ふーん?否定しないんだ」

「…勉強の話なら聞きますが、プライベートな話はしませんよ」

呆れた声。
でも私は止まらない。

だってこうしてゆっくり話せるチャンスなんて、夏休みはあんまりなかった。


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