ほたる先生は振り向かない
「ほたる先生って、なんでいっつも敬語なの?」


私にだけじゃなくて、みんなに対していつも先生は敬語を使っている。
砕けている口調の姿を、見たことがない。

完璧なまでに整った言葉遣い。


どんな答えが返ってくるのか。
少しくらい迷ってくれてもいいのに、と期待していた。

でも。

ほたる先生は、ほたる先生だった。


「僕は教師ですから」


そのたったひと言で、この話題、即終了。
早い。早すぎる。

ぶった斬るって、こういうこと。

でも今日は、なんとなく引き下がりたくなかった。


「でもさ、沢村先生は生徒に敬語使わないじゃん!」

「沢村先生は沢村先生です。沢村先生は敬語を使わないことで生徒との距離を縮めるように、あえて意識しているんだと思います」

「じゃあほたる先生は?」


先生の横顔を見つめる。
ちょっとでもこっちを見てくれたら、目が合うのに。

ちっとも合わなくて、矢印が一方通行すぎるのが痛いほど身にしみる。


先生の答えはまたしても早かった。

「距離感を間違えたくないので」


────“距離感”。

今日だけで、その言葉を何回聞いただろう。


敬語は、距離感。
先生は、ずっと敬語。
私は、ずっとタメ口。

それなのに、縮まった気になっていた。

じゃあ今まで『縮まったかもしれない』と思ってたのって。

─────もしかして、私だけ?


< 38 / 71 >

この作品をシェア

pagetop