ほたる先生は振り向かない
うちの学校は、若い先生はたくさんいる。

若くてかっこよくて、ちゃんと身なりを整えていて“大人の男性”をしている先生はたくさんいる。

人気のある男性教師はある程度“この人”っていうのが何人か決まっていて、たいていそういう先生たちは女子生徒が群がっている。


部活終わりに差し入れしたり、用事もないのに声をかけにいく。

あの先生も、この先生も、その先生も、めちゃくちゃ人気なのは知ってる。


でも、私は。

地味で目立たないほたる先生がいい。



職員室は冷房が効きすぎていて寒い。

コピー機の音と、どこかの先生たちの雑談が遠くで混ざっている。

その奥の席で、ほたる先生はなにかのプリントを赤ペンで添削していた。


「失礼しまーす」


わざとらしくそう声をかけると、先生は顔を上げる。

細いフレームのメガネ越しに私を見て、露骨に小さく眉を寄せた。


「……岸さん。今日は動画撮影じゃなかったんですか」

「え、なんで知ってるの?」

「授業終わりに廊下で聞こえました」

ばれてた。 ちょっと恥ずかしい。
動画撮ってるところとか、絶対見られたくない。


私がノートを抱えたままフリーズしていると、先生は自分から振ってきた話題なのにさっさと逸らした。

「で、質問ってなんですか?」

「あ、えっとね」

持ってきた古典のノートを適当に開く。 正直、どこが分からなかったのか自分でも曖昧だ。

“分からなかった”わけじゃない。
“分からなかったふり”をしているだけ。


「あの、“忍ぶれど”の歌なんですけど」

「はい」

「なんで昔の人って、わざわざ和歌にするんですか?」


先生の手がぴたりと止まった。

赤ペンの先がプリントについたまま、少しだけ視線だけがこちらへ向く。

その視線は、冷めている。

「……質問の範囲が広いですね」

「だって気になるし」

「気になるなら、自分で考えてください」

「考えられないからこうして来てるんじゃん」

なんと言われようとはね返す私に、先生は深いため息をつく。


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