ほたる先生は振り向かない
講習終わり。

今日はなんとなく自習室へ戻る気になれなくて、教室の窓際でひとり現国のプリントを広げていた。

夕方の西日が、プリントの端っこをオレンジ色に染めている。


グラウンドから聞こえる声。
吹奏楽部の音。
遠くで鳴るホイッスル。

夏休みの学校は、静かなのに騒がしい。


シャーペンをくるくる回しながら、評論の問題文をもう一度眺める。

読めなかったわけじゃない。
むしろ、読めた。

なのに、分かった気がしない。

────現国って、変だ。


古典みたいに答えがひとつじゃない。
かといって助動詞みたいに覚えれば終わりでもない。

なのに、
最近ちょっとだけ、“面白い”。


「あれ、岸。まだ帰ってねーの?」

声をかけられて顔を上げると、ドアのそばに沢村先生がいた。


片手にプリント。もう片方にはペットボトル。
さっきの講習よりも身軽になっている。

そして、相変わらず今日も暑苦しい。


私は頬杖をついたまま、ずらっと文字が並んでいるプリントに目をやりながら

「評論復習してる」

と返した。

へぇ、と言いながら沢村先生が近づいてきて、私の手元のプリントに気づくとにやりと笑う。

「珍しいな。古典じゃなくて現国か。刺さったのか?」


確信めいた言い方だったけど、否定できないからそれも悔しい。

私はシャーペンを指で回す。

「なんか最近、現国ちょっと面白いんだよね」

沢村先生が「ふーん」と笑った。


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