ほたる先生は振り向かない

応援してくれる?

チャイムとともに現れたほたる先生は、いつもと変わりなく白いワイシャツをしっかり上までボタンをとめて、真夏なのに涼しい顔で教壇に立った。

「こんにちは」と、小さく挨拶したあとは、袖のボタンを外して丁寧にまくり、ケースから白いチョークを取り出す。


……いつ見ても、崩れないその姿がすごくいい。


講習が始まると、先生は黒板の右上から綺麗な字を書いた。


【和歌 = 遠回しな感情表現】


教室の前の方からは、

「うわー、和歌かあ」

と小さく嫌そうな声が聞こえる。


そう言いたくなる気持ちは、私もちょっと分かる。

古文単語より、助動詞より。
和歌が一番“なんとなく”で読んでしまう。


「共通テストは、和歌単体というより、前後の文章と合わせて読ませる問題が多いです」

ほたる先生が教科書をめくりながら続ける。

「つまり、“誰が”“誰に”“どんな感情で”詠んだかを考えてください」

黒板へ、さらに書き足す。


【誰 → 誰へ → なぜ】


「和歌は直接言いません」

ほたる先生がそう言い切る。

「好きだ、とも」

チョークが止まる。

「寂しい、とも」

また動く。

「会いたい、とも」

黒板へ小さく矢印が増えていく。

「遠回しに書きます」


先生が迷いなく言い切るものだから、教室が静かになる。


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