ほたる先生は振り向かない
講習が終わったあと、ルーティンみたいに先生のところへ行こうとしたら。

今日は様子が違った。

教室に残っていた何人かが、プリントや参考書を持ってほたる先生へ駆け寄っている。


何人かが列をなしているのを見て、そうか、と教室のカレンダーを見やる。

……あんなに長かった夏休みも、もうすぐ終わる。


講習だけじゃなくて、古典で分からないところや不安なところを、みんな確認しに行っているのだ。


私も今日渡されたプリントを片手に、列の最後に並ぶ。

窓から差し込んでくる夏の日差しは相変わらず強くて、夏休み前となにも変わらない。

外、いったい何度あるんだろう。
きっと暑くて溶けるんだろうな。

どうでもいいことを考えながら目を細めた。


男子生徒が顔をしかめて教科書をパラパラと雑にめくって、それを先生に見せる。

「先生。俺、古文だめです。主語わかんなくなります」

「全員そうです」

「いや先生だけ分かってません?」

「分かりません。消去法です」

ほたる先生らしい答え方に、陰で思わず吹いてしまった。

男子は髪の毛がくしゃくしゃになるぐらいかき回して、「無理だぁ」と嘆く。


「小暮くんは落ち着いて問題に向き合えばおそらく解けると思います。……あとは、シンプルに過去問を繰り返しやってください」

「……はーい」

「ちなみに、小暮くん。進路は決めたんですか?」


その声に、私はハッと我に返る。

先生から生徒へ質問することなんて、あんまりない。

この場で驚いているのは、たぶん私だけ。
私だけが、じっと先生の横顔を見つめている。


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