夜の風景
机の上の写真
第四章 – 第九ページ:机の上の写真
翌朝 – 学校
空気は、昨日よりも冷たくなっていた。
ミアは教室の窓から校庭を眺めていた。
何枚かの黄色い葉が地面に落ち、風に吹かれて、石畳の上を静かに滑っている。
昨夜、ミアはほとんど眠れなかった。
目を閉じるたびに、あの光景が目の前に浮かんできた。
アイロ……。
サクラ……。
サクラの手が、アイロの腕に触れていた。
ミアはうつむいた。
「考えたくない……。」
けれど、考えたくないと思えば思うほど、あの光景は頭から離れなかった。
休み時間のチャイムが鳴った。
ユカとリナがミアの机のそばにやって来た。
ユカが心配そうに尋ねる。
「みや、大丈夫?」
ミアは小さく笑った。
「うん。ちょっと寝不足なだけ。」
リナはミアの顔をじっと見つめた。
「昨日、何かあった?」
ミアは答えなかった。
スマートフォンを手に取る。
画面には、まだ読んでいないアイロからのメッセージがいくつも表示されていた。
ミアの指が、彼の名前の上で止まる。
けれど、メッセージを開くことはなかった。
その瞬間、ハナが慌てた様子で教室に入ってきた。
「みや!これ見て!」
手には、一冊の経済雑誌が握られていた。
ハナはそれをミアの机の上に置いた。
表紙には、スーツを着た一人の男性が大きく写っていた。
ミアは、ほんの一瞬だけ目を向けた。
そして――
凍りついた。
アイロ。
しかし、今度の彼は、カフェのカウンターに立っているアイロではなかった。
格式のある会場で、何人もの幹部たちと並んでいる。
写真の下には、こう書かれていた。
「白鷺グループ 副社長・アイロ」
ミアは息を呑んだ。
「……やっぱり。」
ユカが驚いたようにミアを見る。
「知ってたの?」
ミアはゆっくり首を横に振った。
「知らなかった。」
しばらく沈黙したあと、ミアの目が別の見出しに止まった。
「ムーンライトカフェ再開発計画」
その名前を見た瞬間、ミアの胸が締めつけられた。
アイロが働いていた、あのカフェ……。
そして、なくなるかもしれないと聞かされていた場所。
ミアは静かに雑誌を閉じた。
そして、心の中でつぶやいた。
「アイロ……何者なの?」
けれど、今度はもう一つの疑問が浮かんできた。
「そして……あのカフェをどうするつもりなの?」
そのとき、窓から冷たい風が吹き込んできた。
黄色い葉が一枚、ミアの机の上に舞い落ちる。
ミアはその葉を拾い上げ、しばらく静かに見つめていた。
秋は、まだ始まったばかりだった。
けれど――
彼女の人生に隠された秘密は、少しずつ、そして確実に深まっていった。
つづく……