彼の手『だけ』を見ていた私は、
「痛くない?」
「っ……だ、大丈夫、です……」

 本当は、傷の痛みなんてほとんど分からなかった。
 神経全部が『触れられている』ことに持っていかれている。

 長谷川さんは私の指を支えるように持ちながら、消毒綿でそっと傷口を拭った。
 傷口に消毒液が染みたのか、小さな痛みが走る。なのにそれ以上に強く意識してしまうのは、指先に触れる彼の親指の感触だった。

 消毒を終えると彼は絆創膏の包装を器用に剥がし、傷口へ丁寧に巻いていく。その指の動きがあまりにも滑らかで、自然で。私は呼吸を忘れたみたいに見入ってしまう。

 長い指。
 骨ばった大きな手。
 私の指を逃がさないように支える手の平。

 全部が駄目だった。
 どうしようもないぐらい好きだった。

 最後に長谷川さんは、貼り終えた絆創膏の上から傷を癒すように親指で軽く撫でた。

 とんとん、と。
 あやすみたいに優しく。

「――っ、ぁ……」

 思わず、甘い吐息みたいな声が漏れた。「しまった」と思った時にはもう遅い。頭の奥がじわじわ痺れて、心臓が苦しいくらい速くなる。

 熱い。
 恥ずかしい。

 なのに、離れてほしくない。

「……根室さん?」

 長谷川さんが、不思議そうに私の顔を覗き込む。その目は、仕事中の鋭さとはまるで違った。ただ純粋に、私を心配している優しい目。その視線と今も指先を包み込む手の温度に耐えきれなくなって、身体から一気に力が抜けた。

「あ、の……はせがわ、さん……」

 まともに息もできない。
 頭の芯まで痺れて、とろけてしまいそうで。
 
 私は座っていられなくなり、崩れ落ちるように床へしゃがみ込んでしまった。
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