ギミック・ラブ ~年下小悪魔の上手な飼い方~
──あの日がなかったら、きっと今もそうだったろうな。
胸糞悪い男の挑発に乗ってしまい、迂闊にも商談の席で客を怒らせてしまった。後悔先に立たずで、不在だった上司の代わりに美咲がフォローに入ってきた。
──俺らしくない、とか言うから。
腹立たしいやら、恥ずかしいやら、美咲まで傷つけないかという心配ですっかり搔き乱されていた心に、彼女のその言葉が甘い棘のように刺さってしまった。
自分の何を知っているというのだろう。こんなにもあなたを想っていることさえ知らないくせに。
そう思ったら、長年抑えていたものが決壊した。
素顔を隠していた仮面が砕け、剝き出しの自分で彼女を求めてしまった。触れてしまった。
……一度触れたら、もうダメだった。
夢のような時間だった。
どれだけ触れたいと願ったかしれない温もりに、肌に触れ、彼女が自分の名を呼んでくれる。求めてくれる。
この腕に彼女を抱き、互いに満たし合える。これまで作業でしかなかった行為にあんなにも高揚し幸福感を覚えたのは初めてだった。
知ってしまった幸福が欲を生んだ。
彼女がフリーになったところで自分には付き合う資格なんてないとわかっているのに、欲しいという衝動も封じ込められない。
叶わなくてもいいから、ただ俺という人間が想っていたことを彼女の片隅に残したい。
いつかはあの部屋も出ていくつもりだった。
もう少し、すべてを曖昧にしたままあの幸せな時間を享受できればと願っていたが……出ていくことで彼女の夢と笑顔を守れるなら、惜しくはない。