箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
 嬉しそうだ。本当に、心の底から嬉しそうだ。
 だからこそ、父親としての、そして何より一人の「狂信的な愛娘家」としての心配が、限界数値を突破しそうになっていた。

「新那」
「んー? 何?」
「学校という場所には、様々な人間がいる。もし、少しでも困ったことや、理不尽な目に遭うようなことがあれば、一秒以内に私に連絡しなさい。我が社の法務部を総動員して相手を」
「パパ、まだ始まってもないよ? 友達関係なら自分でちゃんと解決できるってば」
「……それと、特に『男』だ。甘言を弄して近寄ってくるような不埒な輩には、決して気を許してはならない。高校生の男子など、全員が狼だと思え」
「もう! それもまだ早いってば!」

 新那は思わず吹き出してしまった。
 大真面目な顔で、まるで国家の安全保障問題でも語るかのように熱弁を振るう父親が、おかしくてたまらない。

「パパって本当に、世界一の心配性だよね。ビジネスの時はあんなにクールなのにさ」
「父親というのは、娘の安全のためなら世界を敵に回せる生き物なのだよ」
「はいはい、ごちそうさまでした」

 新那は呆れたように笑いながら、最後のフルーツを口に運んだ。
 しかし、父親の方は全く笑っていなかった。
 広げた新聞の陰から、制服に身を包んだ新那の姿を、じっと鋭い眼光で見つめる。
 高校生になった娘。これから、自分の目の届かない広大な世界へと、小さな足で歩みを進めていく娘。
 その事実が、どうしても、どうしても父親の理性を侵食し、落ち着かせなかった。

(私の大切な宝物を、無防備なまま悪い狼どもの巣窟へ放り込めるわけがないだろう、新那……)

 だからこそ、彼は「万全の準備」を整えたのだ。
 生半可な護衛ではない。自分の会社の息が掛かった、裏の社会でも一切の妥協を許さない超一流の人間を。
 新那と同世代でありながら、あらゆる危機から主を守るためだけに育て上げられた、冷徹無比なプロフェッショナルを。
 すでに昨夜の内に、その「彼」への指令は完了している。

『新那と同じ高校に入学し、同じクラスの、最も近い席を確保せよ。そして、三年間四六時中、彼女に影として寄り添い、一切の害悪から守り抜け』

 と。

「?」

 父親の、あまりにも熱を帯びた視線に気づいた新那が、不思議そうに首を傾げた。

「パパ? どうしたの? 私の顔に何か付いてる?」
「いや」

 父親は一瞬でビジネスの冷徹な仮面を剥ぎ取り、いつもの穏やかで優しい「パパ」の笑顔に戻ってみせた。
 手元に残った冷めた珈琲を、実になめらかな動作で飲み干す。
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