箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
 お腹いっぱい朝食を食べ終えた後。
 新那はリビングの贅沢なイタリア製本革ソファに深く腰掛け、スマートフォンの画面を熱心にスクロールしていた。
 表示されているのは、今日から通うことになる高校の公式ホームページだ。
 新緑のグラウンドで汗を流す運動部や、放課後の部室で楽しげに楽器を構える軽音部の紹介ページ。
 秋の年間行事予定の欄には、カラフルなクラッカーのイラストと共に『百花祭(文化祭)』の文字が躍っている。
 過去のギャラリーを開けば、クラスでお揃いのTシャツを着て、ピースサインを作って笑い合う先輩達の写真が何枚も掲載されていた。
 どれもこれも、眩しくて、楽しそうで、胸が痛くなるほど魅力的だった。

(もし、気の合う友達ができたら、まずは一緒にあの購買のパンを買いに行こう。それで、放課後は駅前のあのちょっとお洒落なカフェに寄って……うん、絶対に楽しいに決まってる)

「ふふっ……」

 画面を見つめたまま、思わず声を出して笑みが零れてしまう。
 指先ひとつで捲られる未知の世界の一ページ毎に、新那の脳内ではカラフルな妄想が爆発していた。
 その時だった。

「新那」

 静かなリビングに、背後から父親の、いつもより一段と低く厳かな声が響いた。

「ん? なぁに、パパ?」

 スマートフォンから顔を上げ、ソファの背もたれ越しに振り返る。
 父親は、廊下の奥へと続く重厚な二重扉の前で立ち止まっていた。その表情は、いつもの娘を溺愛する弛みきったパパのものではなく、数千人の社員を率いる冷徹な最高経営者(CEO)の顔そのものだった。
 そして――新那の動きが、ぴたりと止まった。
 父親のすぐ後ろ、その影に隠れるようにして、もう一人の人物が音もなく立っていたからだ。
 新那と、おそらく同じか、一つ二つ上くらいに見える年齢の少年だった。
 仕立ての良いネイビーのブレザーに、赤いチェックのネクタイ。それは間違いなく、新那が今日から身にまとう学校の指定制服だった。
 夜の闇を溶かし込んだような美しい黒髪。すっと通った高い鼻梁に、ナイフで切り出したかのようにシャープなフェイスライン。モデルを専門にする芸能事務所に放り込んでも、一瞬でトップに登り詰めるであろうほどの、圧倒的に整った容姿。
 しかし、何かが、決定的に妙だった。
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