箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
 彼の顔には、一切の表情がなかった。
 美しく、完璧すぎるほどに整っているのに、そこには生身の人間が持つはずの「体温」や「揺らぎ」が全く見当たらないのだ。
 開かれた春の窓から差し込む朝日に照らされているというのに、その肌は陶器のように白く、血色が感じられない。
 何より、その漆黒の瞳。真っ直ぐに新那を捉えているその目は、まるで光を全て吸い込んで跳ね返さない、深海の底のような静寂を湛えていた。
 瞬きすら、計算されたかのように一定の周期でしか行われない。

「パパ……? その人、誰……?」

 新那はソファから立ち上がり、困惑を隠せないまま父親に問いかけた。

「今日からボディーガードとして彼に傍にいてもらうよ」

 父親は待っていましたとばかりに、満足そうに深く頷き、少年の肩に手を置いた。

「紹介しよう、新那。今日から君のボディーガードとして、四六時中、その傍らに付き従ってもらう。学校でも、プライベートでもだ」

 数秒間、リビングの空気が完全に凝固し、新那の思考回路が完全にシャットダウンした。
 脳が、父親の放った言葉の意味を正しく処理することを拒否している。

「……え?」

 ぽつりと、間の抜けた声が出た。

「我が社の全ての技術力と、私の全財産の一部を投じて用意した、最高峰の護衛だ。これでもう、学校の狼どもも、予期せぬ事故も、君に指一本触れることはできない」
「いやいやいや! ちょっと待って、待って、待って!」

 新那は激しく手を振りながら、父親の元へと駆け寄った。

「どうしたんだい? そんなに慌てて」
「どうしたんだい、じゃないよ! パパ、本気で言ってるの!?」

 父親の目は、これっぽっちも冗談を言っている人間のそれではなかった。
 極めて真剣に、娘の安全を百%確保したことに心からの安堵と誇りを感じている顔だ。

「私、ボディーガードなんていらないよ?」

 思わず声が裏返り、リビングに新那の叫びが木霊する。
 しかし、父親は新那のその猛反発をあらかじめ予想していたと言わんばかりに、大袈裟に肩を竦めて、やれやれと溜息を吐いた。

「必要だ。新那、君は世の中というものを知らなさすぎる。外の世界には、君が想像もできないような悪意や危険、そして何より不埒な男どもが溢れているんだ」
「普通に、普通の公立高校に、普通に通うだけだよ!? 皆護衛なんて連れてきてないよ!」
「周囲が普通だからこそ、私は心配なのだ。これまではこの邸宅という完璧なシェルターの中に君を保護することができたが、これからは違う。私の目の届かない場所に君を放り出す以上、これくらいの安全策を講じるのは親として当然の義務だ」

 意味が分からない。論理が破綻している。
 新那はあまりの頭の痛さに、額を押さえて天を仰ぎたくなった。
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